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太陽に焼かれて殺されたダニの香りの芳香剤を売れ 第39.1話 首都等速運動
俺は浅荷と湖を見つめていたベンチを離れて、手洗いに行ってくると伝えた。
モールの至るところに洗面所があり、あまり人が来ない場所を見つけるのは簡単である。
手を洗って戻ろうとするが初めて来た場所だったようで一瞬勝手がわからなくなった。でもそんなの通行人に湖ってどっちでしたっけと聞けば一発でわかることなので特に気にしていなかった。
モールの「決して地上ではない感」のある通路を通っていると、テナントがまったくない寂れた区画に出た。中にはドアが半開きで中の真っ暗さが廊下の電気すら吸い込んでしまうんじゃないかってほどのとこがあって、なんか犯罪とか起こりそうで怖いんだけど監視カメラが動いてるだろうからいいのかな、と感じる。
その区画から外に出れそうな、廊下と地続きの同じ色のドアがあったので開ける。保護色なのでもしかしたら自分のテンション次第では気づかなかったかも知れない。
ドアを開けるともっと暗闇になっていて、流石に怖気づいた。
ここは俺が来るところではないんじゃないか?と。俺というかありとあらゆる客が来るところでは……
ドアを閉めようとすると揚羽がすっとドアの後ろから来たのか俺の目の前を通り過ぎ、その闇の中に入っていってしまった。いくらなんでもそんな闇の中にいたらこの揚羽はそのうち息絶えてしまうだろう。俺は俺がこのドアを開けてしまったことでむざむざそんな場所に吸い込まれる必要がなかった揚羽を思い、罪悪感に包まれながらドアを閉めようとしたら今度は素早くてわからなかったんだがなんらかの鳥がちちちといいながらその中に飛び入っていった。
まさか揚羽を食おうとしたのだろうか?鳥は……なんらかの条例で見殺しにしちゃいけないとかなかったか……どうする。現代人なら見て見ぬ振りか?伝家の宝刀である。ことなかれということが、だ。
俺はドアを限界まで開け、惰性で返って来るようなタイプだったら見て見ぬ振りして浅荷がいる湖に帰ろうと思ったが、残念ながら(?)ドアを限界まで開くとそこで止まるタイプのドアだった。俺は半ば絶望しながらその暗闇の中に入っていくと、さっき蝶を追いかけてあの無鉄砲な若鳥が突入したとはとても思えない静けさを保っており、俺は一瞬で入ったことを後悔した。
俺が開けた部分からだけは光が射しているが、今日はあいにくの曇りだから大した光量じゃない。暗闇に目が慣れそうもない。だが、俺はなんだかこの暗闇には対して障害物はなさそうに思った。同時に、障害物まみれだったらさっさと帰ろうと思っていたのだがそうではなさそうでこれもまたがっかりした。
闇に目が慣れることはないのだが、せめて鳥はともかくあの悲しい顛末を迎えそうな揚羽を追いかけることで外に出してやろうと探したのだが、部屋の隅に手をついてゆっくり歩いてもとてもじゃないが見つかりそうにない。だが、部屋のよすみを歩き続ければ、きっと蝶特有の光に目が奪われてそっちに飛んでいく習性で追い込み漁ができると俺は考えていたので、せめてすべての端を歩いて戻ろうと思った。それで出ていかなかったらドアを開けっ放しにしておけばいい。
「鳥と蝶を逃してやろう。お前は少し付き合いな。デミグラの話をしよう」
声が聞こえると俺が全開にしていたドアが締まる音がした。俺は果てしない絶望感に包まれた。
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