伊東のTUKUNE 11話 僕の未来は遅刻して進む
▼前回
https://note.com/fuuke/n/n32ac2d8a0e45
▼あらすじ
進学した僕は通学路にあった焼き鳥屋である ”伊東のTUKUNE” で買い食いしたいがためにヤンキーになった。焼き鳥屋の前には常にヤンキーがたむろしていて、なぜか当時の僕は自分もヤンキーにならなければ買い食いができないと思っていたのだった。
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僕は彼女(突然、共に行動することになったハムスター)に完食された蒲鉾(かまぼこ)の意味を考える。
僕は彼女に本当は魚が好きなんじゃないのかと問う。この小さな身体のどこに、身体の倍ぐらいもある蒲鉾が収納されたのかについて考える。
「あなたに見えているわたくしは物事のある表層の一部に過ぎません。ブチギレ上司が家ではアットホームパパみたいなものですね。常に生き物とは別の生き物と相対する時には一面しか見ていないのです」
それで食べ物はどこへ行ったのか、と聞いた。どうも彼女は僕が予想した答えではない回答をしてくることが多く、煙に巻かれているような気持ちになる。
「わたくしという表層的概念に影響を及ぼされた、かつて生命であったもののは何らかの過程を経て、表層の一部となったのでしょう。もちろん表層とはわたくしですね」
まともに答えてくれたように思ったけど、当時の僕には理解力が足りなくてよくわからなかった。
ともあれ、彼女は僕に蒲鉾板を与える予定に便乗して根源的な欲望を満たしたかのように見えた。この先に蒲鉾板を黒い携帯電話に見えるようにどのような偽装を施すべきかの指南が与えられると思ったんだけど、彼女の返事は
「そうですね。1コインで何でも買える店で黒い貼り付け剤を買えばいいんじゃないですか」
という投げやりなものだった。貼り付け剤とはテープのことらしい。果たして彼女は食欲的満足を得られたのだろうか。
「わたくしには食欲というものはないんですねえ。なんせ表層的存在ですので」
彼女は爪楊枝あたりを与えてしまえば今にもふんぞり返って使い始めるような仰向けの姿勢で、およそ野生ならば見せないような体躯を大地に捧げるあられもない格好をしていた。大地とはもちろん僕の手だ。
僕はこの時ふと、自分がなぜこんなことに巻き込まれているのかようやく気になることができた。まるで得体のしれない、こちらからは決して干渉できないクラスの第三者のちからで動かされていたように思える。村上紫は果たしてアルバイトの面接とやらを終え、その対価にこのハムスターを僕は得、彼女の指示に従って買った食べ物は今や彼女の腹の中にあり、なんと彼女は表層的存在だという。
ぼくは彼女に、自分がなぜ普通に下校せずにこんなに寄り道ばかりしているのだろうと尋ねると、
「あなたの未来には光も闇もありません。ただ受け入れるまま受け入れて、消えていくまま消えて行くしかないのです。光も闇も持たない生き物の未来とは、あたかもひとつの用事のためにどうしても乗るべきだった電車に乗り遅れながら、次の電車を待ち続け、いつまで経っても電車が来ないから仕方なく受け身の時間の中で次の試練をどのように片付けるかを考えるために使っていたら勝手に向こうから訪れてくる程度に思っていればいいんです。未来だって遅刻をする」
そんなことより、僕の未来には光も闇もないと明かされてしまい、そのほうが驚いた。僕の未来は遅刻しながら進んでいる。
▼次回
https://note.com/fuuke/n/n48d8f76636dc
伊東のTUKUNE 12話 恐怖の魚群探知男
▼謝辞
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