本を読むこと。 ~ レオナルド・ダビィンチが好きすぎて ~
今回ご紹介する斎藤 泰弘さん著書、「誰も知らないレオナルド・ダ・ヴィンチ」は彼が残した多くの手稿(雑記メモ)から当時の彼の思考を紐解き、時代背景とともに、「万能の天才」であるダヴィンチの人間らしい本当の姿を追いかけます。
いくつかのエピソードをご紹介しながら「時代を超越した天才」の生身の姿を見ていきたいと思います。
約束を守らない、気まぐれな芸術家
彼の「完成」した絵画作品の数はあまり多くはありません。
青年期から「遅筆癖」を指摘されており、依頼された作品も完成せずに放置されているものも多数あったようです。
しかしながら彼の素描は見事であり、本来「下絵」だけでは芸術価値はないのですが、その恐るべき素描力によって、彼の素描は「完成品」に劣らない価値があったと言われています。
彼の絵画作品の異常な少なさは、かえって卓越した画家としての名声に寄与することになりました。
わたしも博物館で彼の手記やスケッチを拝見する機会があったのですが、その描写力や観察力はやはり卓越したものがあり、彼の得た感覚を指先に伝える脳の働きたるやまさに「天賦の才」なのだと思いました。
自信に溢れた「万物の天才」
当時の身に纏っていた衣服や髪型、髭の様子から壮年期のレオナルドは「芸術家」以上に別の何かになりたかったように感じるといいます。
彼は幾何学に没頭する自然観察者であり、自然現象を数学の言葉で把握しようとした科学者であり、そして自然の力を人類のため利用しようとする工学者であり、そして絵画作品は自然の科学的認識の上に築かれる、自然そのもの最終的な「完成」作品であると確信する芸術家でした。
彼のメモにはこのような自然科学の発見を著作にして、世の中に広がることを夢想しながら書いた空想の序文が残されています。
このようなメモが500年後に見られるなんて、思ってなかったでしょうね。
中二の頃のわたしのノートがいま残ってて、みんなに見られたらと考えたら恥ずかしすぎて、しばらく呼吸できません。
でも、さすがはレオナルド親方です。
実際にレオナルドはその思考を著述して発表することはなかったのですが、500年の時を経て、その自然観察の鋭さや時代を超越した「ヘリコプター」や「飛行機」、「橋」などの発明の数々は驚嘆を伴って現代に蘇ることになります。
早すぎた天才
彼の知が爆発したのは30代を過ぎてからだと言われており、それは彼が亡くなる67歳まで衰えることはありませんでした。
彼は自然観察、生物観察、人間観察、解剖、数学(幾何学)を通じて得た知識を統合して「世界」を見ることができる、システム思考の持ち主だったと言われています。
そして、当時では「異端」として厳しく弾劾される恐れのある「思考」へたどり着いたと思われる記述がメモに多く残されています。
生命の誕生の秘密(進化論、海と生命類似性)、太陽は動かない(地動説)、運動力学(ニュートンの法則、慣性の法則)など、彼が没後に生まれた「地球の真理」が既に彼の思考にあったことが伺えます。
しかしながら、それを論述して記載する術を持たず(彼は学校で教育を受けておらず、当時の論文や著書の基本言語であったラテン語を苦手としていた)、またこの思想は当時は神の言葉である「聖書」とその周囲を固めるスコラ思弁哲学を否定するものであったことから、その思考の一切はすべて鏡文字で書かれたメモに封印されます。
こうして晩年の彼は自分で「論考」を編むのを諦めて、弟子のフランチェスコ・メルツィにすべての手稿を遺贈します。
弟子はその手稿のうち絵画に関するものだけを集めて「絵画の書」を編みますが、物理や生命に関する科学的考察部分は同時代の人には理解が及ばず、科学技術が発達する19世紀末まで発見が遅れます。
彼の「芸術家」としての名声は後世に語り継がれようになりますが、「万能の天才」は500年の時を経て誕生することになるのです。
そういった意味では彼もまた時代により「処罰」された一人だったのです。
彼の絵画にも多くの「幾何学的」手法や「人体解剖」から得られた知識が詰め込まれいると言われています。
彼は書けなかった「知」の多くを絵画作品に描きこんだのかもしれません。
誰が私の「知」に気づけるのか?
彼の「絵画」がこれほど人を惹きつけるのは、彼が私たちに問うた「なぞかけ」にあるのかもしれません。
最後に
この本を読み終えた後、NHKスペシャルで「ダビンチ・ミステリー 第2集 “万能の天才”の謎〜最新AIが明かす実像〜」という放送があり、内容は残された多くの手稿の単語の繋がりをAI解析するといった内容でした。
こちらの放送も見ましたが、驚くことに、肉眼では見ることができない心臓の血流の流れを示したイラストや人工衛生や飛行機のなかった時代に正確な鳥瞰地図もメモに残されていました。
しかし、メモのAI解析からそれらの単語を結びつけていくと、先に述べたように数学(幾何学)や水の流れなどの自然観察などを通じたアナロジー(類推)から辿りついたものであることがわかり、根気強い観察と教養の蓄積、経験から得た知識、それらの断片を組み合わせることで「新しいもの」を生み出していたことがわかります。
これは現代でいうところの「イノベーション」の基本です。
レオナルドの残した多くの手稿はまさに人類の宝となりますが、中でもその「思考法」こそが彼の遺したものでもっとも偉大であり、たくさんの新たな「知」を生み出すことになる発明だったのではないかと思います。
最近ただの「袋」になっているなぁと思われた方はぜひこの本でレオナルド親方に怒られてください。
レオナルド・ダ・ヴィンチの人間らしいところに触れつつ、あらためて「教養」が新しい道を創り出すのだということに気づけた本でした。
最後までお読みいただきありがとうございました。
今回ご紹介いた本
斎藤 泰弘 著「誰も知らない レオナルド・ダ・ヴィンチ」
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