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【読んだ感想】『殺戮にいたる病』我孫子武丸

久々のミステリー。
下部 区切線以下にネタバレがあります。未読の方はご注意ください。

見事に騙された。

読み進めながら時系列がバラバラな事が気になりつつも「時系列なんて頭の中で整理すればいい」と安易な気持ちで読んでいた。でもこの時系列が大混乱を招いていたことに、後になって気がつく。

はっきり言うと、当初ミステリーとしてはピンと来るものは感じていなかった(過去形)。犯人も最初から分かっている状態。過去のトラウマから来る精神障害なのか、容認するわけではないがそういう人が世の中にいたとしても不思議ではない。くらいの認識だった。
何が凄いのか、どこが凄いのか、分からない。
ずっとそう思いながら読んでいた。

そしてラスト。
これまで読んだミステリーの中でも群を抜く、裏切りと衝撃。
でも、そういうことだったのか、と思うのは後の祭り。

文章を素直に読んでいるつもりが、自分の中でバイアスをかけていたことに衝撃を受けた。

読み終えた瞬間、もう一度読まなければという気分にさせられる。きっと騙された自分が悔しいのだ。
初めはパラパラと稔の頁だけを読み漁っていた。そして気になっていた時系列について考えてみた。考えていたらまとめたくなってきた。
ということで自分の頭の中の整理も兼ねて、表を作ってみた。

誰かの役に立つのかも分からない表
1枚に収まらず、チマチマと何度も作り直す羽目に
途中でやめようかと思ったけど、ここまで作ったのに
お蔵入りになるのが嫌でなんとか仕上げた

こうして並べてみると、稔と樋口の時間が重なるのは第六章、雅子に至っては第七章まで重なることがない。
作者がどんな意図でこの構成にしたのかは定かではないが(後書きでもそう書いておられた)、凡人の私には読みながら頭の中を整理するのは無理すぎた。
この表をもとに時系列通りに読んでみればいいのではないか?ただ…時系列通りに読んだとて、初見であればバイアスがかかることには変わりないのだけれど。

どんな情報も書かれた内容だけで自分は判断していないということ、これまでに得た知識や経験が、脳の中に入った情報を歪曲しているという事実に気付かされた。
伝言ゲームが最初の言葉通り伝わらないように、人にはそれぞれの思考がある。聞いた言葉をそのまま伝える簡単なことなのに、自分の頭の中で何かと関連づけたり、自分の解釈を加えた言葉に変換したりしてしまう。
自分さえも信じられない。ということを肝に銘じなければならない。

トリックにハッとさせられる、という事以上に自分の中の思い込みやバイアスに気づかされた事が1番怖かった。




ここから下はネタバレ



時系列順に並べ、ヒントが書かれていたと思われるエピソードを抜き出してみた

私的時系列で読む順番とキーになるエピソード&考察
ページ数は講談社文庫 第35刷

2章の2、3章の2、5章の2で稔が自分の車を持っていること、若くは見えないことは記載されているが、大学生だから自分の車を持っていないとは断言できないし、老けて見える大学生というのもいる。稔がオジンと呼ばれていることに少し違和感は覚えていたが、この時点では 稔=息子 という概念が覆ることはなかった。

しかし1章の5、6章の2で時間的に 稔=息子 ではないということが明らかになっている。
この物語が時系列順に書かれていたのならば、この時点で気が付く読者も多かったはずだ。
実際に書かれている順番通りに読んだ人のうち、6章の2を読んだ時点でこの事実に気がついていた人はどのくらいいるのだろうか。


今回アップした2つの表が何かの役に立つのか?きっとたたない。
しかし、1度読んだうえで読み直そう、と考えている誰か1人の目にでも止まってくれれば嬉しい。

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