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意味は脳のどこにある/ロボマインド・プロジェクト#517【トリビア雑学・豆知識】

「見る」という行為は単なる受動的な行為ではなく、無意識が作り出す世界を意識が受け取る動的なプロセスである。たとえば、色や動きは脳内の特定領域(V4野やMT野)で作られる。さらに視覚処理は、見た対象が「何」であるかを判断する経路にもつながる。この判断を行うのが腹側視覚路であり、位置や動きを分析する背側視覚路とともに、視覚の二大処理経路を構成する。
脳梗塞患者ジョンの例では、右脳の紡錘状回が損傷し、顔や物の全体的認識が失われた(相貌失認)。右脳は全体を、左脳は部分を処理するため、部分を組み合わせても全体像が認識できないことが示された。ジョンは、目や鼻といった顔のパーツや、物の特徴を認識できるが、全体的な意味を理解できず、機能に基づいた判断に頼る結果となった。
視覚処理には、第三の経路「それでの経路」もある。この経路は、感情や情動を基に次の行動を意識的に決定する処理を担う。カプグラ症候群では、この経路が損傷し、親しい人の顔を見ても親しみを感じられず、「母親は偽物だ」といった認識の矛盾が生じる。一方、ジョンの場合、花の絵を描く際に花の形を認識できないため、矛盾を解消するために無意識が「それらしい絵」を花だと思わせる逆カプグラ症候群的な現象が起きた。
ラマチャンドラン博士の研究は、視覚が単なる感覚の受容にとどまらず、脳内で構成される意味の理解に深く関わることを示している。意味の認識は脳機能に依存しており、従来の言語学やAIが脳や意識、無意識を考慮していない点に大きな課題があると結論づけられる。

1:視覚は動的なプロセス/視覚は無意識が世界を作り、意識が受け取る動的な行為であり、物理的な現実を直接見ているわけではない。
2:色と動きの脳内処理/色はV4野、動きはMT野が作り出し、物理世界には存在しない概念である。
3:視覚情報の二大経路/視覚情報は「どこの経路」(位置や動き)と「何の経路」(対象の意味)に分かれて処理される。
4:ジョンの相貌失認/右脳紡錘状回の損傷により、顔のパーツは認識できるが全体像を理解できない状態が生じた。
5:部分と全体の処理/左脳は部分を、右脳は全体を処理し、部分をつなげても全体認識とは異なる。
6:無意識の世界構築/無意識は情報から矛盾のない世界を構築し、意識はそれを疑うことができない。
7:右脳と左脳の役割/右脳は全体認識、左脳は部分認識を担当し、両者を連携して判断を行う。
8:「それでの経路」の意義:第三の視覚経路「それでの経路」は、感情や情動を基に次の行動を意識的に決定する役割を持つ。
9:カプグラ症候群/第三の経路が損傷することで、親しい人を偽物と認識する症例が生じる。
10:ジョンの描画と逆カプグラ症候群:ジョンは全体像を認識できず、無意識が矛盾を解消するため、似ていない花を花として描く逆カプグラ症候群的現象が発生した。
11:感情と視覚処理/見た対象への感情が視覚的認識と行動決定に重要な役割を果たす。
12:視覚の無意識的判断/無意識は意識が行う判断や行動にも影響を与え、思考の背景に関与している。
13:意識と無意識の関係/意識は無意識が構築した世界をそのまま受け入れる仕組みで、疑いや否定ができない。
14:意識の役割/意識は無意識の構築した情報をもとに行動を決定する役割を持つ。
15:花と雑草の区別の困難/ジョンは大まかなカテゴリー判断は可能だが、詳細な違いを区別できない。
16:ラマチャンドラン博士の提案:意味を脳機能を基に再定義する必要性を提案し、言語学やAIの課題を指摘。
17:無意識の矛盾解消/無意識は常に矛盾を解消し、現実に即した世界を構築しようとする。
18:矛盾のある世界認識の例:写真選択の実験で、無意識が矛盾を修正する事例が示された。
19:感情が行動に与える影響:感情や情動が行動決定に直接影響を及ぼし、視覚情報と結びついている。
20:言語学と脳機能の接点/意味を脳機能で捉えることが、従来の言語学や自然言語処理の限界を超える可能性を示唆。

動画文字起こし

動画内容要約

ラマチャンドラン博士の著書『脳の中の天使』の視覚に関する章では、視覚という行為の本質を深く探求している。「見る」という行為は一般には受動的に感じられるが、実際には無意識が世界を構築し、意識がそれを受け取るという動的なプロセスだ。この視点は、色や動きといった現象が脳内で生成されるものであり、外界に直接存在するものではないという発見を通じて強調される。

例えば、色は外界の物理的現象ではなく、脳内のV4野によって生成される。動きについても同様で、MT野が飛び飛びの画像を連続した動きとして再構成している。こうした仕組みにより、私たちはスムーズな世界を体験している。

視覚処理はさらに複雑で、見たものが「何であるか」を判断する段階がある。たとえば、意味とは何かと問われた場合、その答えは脳の機能やニューロンによる処理に依存することが分かってきた。この新たな理解に基づき、「意味を脳の機能で定義する」という視点が提案されている。


ジョンという人物のケーススタディが紹介されている。
ジョンは脳梗塞の後、人の顔を認識する能力を失い、自分の顔でさえ誰のものかわからなくなった。この状態は「相貌失認」と呼ばれ、右脳の紡錘状回の損傷が原因とされている。紡錘状回は側頭葉にあり、顔認識を担う領域だ。ジョンの視力そのものは正常であり、部分的な特徴(目や鼻)は認識できるが、それを全体として統合することができない。

興味深いのは、右脳と左脳の役割の違いだ。右脳は全体を直感的に捉える一方、左脳は部分を詳細に分析する。右脳の損傷によって全体の認識が損なわれると、部分の集合として全体を見ることしかできなくなる。ジョンはニンジンを「ペンキ塗りのはけ」と判断したが、それは部分を組み合わせた結果に過ぎない。全体の意味を直感的に理解する右脳の機能が欠如していたためだ。


視覚処理には「何の経路」と「どこの経路」という二つの主要な経路がある。
「何の経路」は、見たものが何であるかを認識する経路であり、
「どこの経路」は空間的な位置関係や動きを分析する経路だ。
ジョンの場合、後者は正常に機能していたため、歩行や運転が可能だったが、花と雑草の区別はつかなかった。

ラマチャンドラン博士はこれに加え、第三の経路「それでの経路」を提唱する。この経路は意識的な行動を決定する処理を担い、感情や情動と深く結びついている。例えば、親しい人を見た際に感じる「親しみ」という感情がこの経路で生成され、それが次の行動を導く。第三の経路が損傷すると、感情的なつながりが失われるため、カプグラ症候群のように親しい人を偽物と思い込む症例が発生する。


ジョンのケースからは、無意識が世界を構築する役割の重要性も浮き彫りになる。無意識は脳内で分析した情報を元に、最も整合性のある世界を構築する。例えば、実験で写真をすり替えられても、無意識は矛盾を感じず、説明を作り出してしまう。意識は無意識が作り上げた世界を受け入れるだけで、疑ったり否定することができない。

ジョンが花を描く際にもこの現象が見られた。園芸家としての知識は保持していたが、花そのものの全体像を持つことができず、奇妙な絵を描いた。しかし彼自身は、それが花だと自信を持って断言した。これは無意識が矛盾のない解釈を作り上げた結果だ。ジョンのケースは、無意識が作り上げた世界に意識が従うという脳の仕組みを象徴する。


このように、意味の理解は脳内のさまざまな機能が協働して初めて成り立つ。特に、意識や無意識、感情の役割を無視しては本質に迫れない。これまでの言語学や自然言語処理は脳の仕組みを考慮してこなかったが、ラマチャンドラン博士の視点は、意味の捉え方に新たな地平を切り開く。視覚から始まるこの考察は、言語や人間の認知全般にわたる深い洞察を示している。



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