願い事センター ~アフタートーク~
前作はこちら。
居酒屋。
女性職員二人。
「ぷは~!うっま!」
「美味し~い」
「何で美味しいんだろ、
仕事の後の一杯って」
「何でだろうね?」
「しかし今年もよく期間内に、
終わらせたね」
「何言ってんの。
今年もギリギリだったでしょ」
「だってあの願い事の短冊って、
つい読んじゃうじゃない」
「そう!
じっくり読んじゃうよね。
これはお金、これは健康、
変身願望とか瞬時に選別してるのに、
ふと気付くと熟読してるの」
「引っ越しの時に出てくる、
懐かしい雑誌みたいにね」
「読み始めると、
止まんなくなるみたいな」
「でも毎年のことだけど悩んだわ」
「一番の子はダントツだったけど、
他にもいいのあったよね」
「例えばどれが良かった?」
「私は良いというより、
印象的なのがあって。
高知県の男性だったと思うんだけど、
家もある。金もある。
妻らないのでお願いします。
これ好き。
切実で、この人の人生を物語ってて」
「何かあったのか…何かあるのか…。
色々想像できてユニークね。
年齢重ねた人は洒落てたり、
言葉の重みが違うのよね」
「そうなのよ。
願望にもその人となりが、
滲み出てるっていうか」
「わかる。
それが子供の、
純粋で無邪気な願い事と、
一緒に処理するから尚、際立つよね」
「介護施設のおばあちゃんが、
喜寿の祝いに孫来たれ
って書いてあると、
色々、その家族の関係性とか、
考えちゃうよね」
「私たちはあくまで選考係。
余計な詮索はしないのが決まりだから」
「そうなんだけど、
家庭の悩みとか病気からの回帰は、
本当に臨んでいることだけど、
私たちがそれを選んだとしても、
どうにもできないでしょ?」
「そこがこの仕事始めた当初は嫌だった。
小さいお子さんが、
病気がよくなりますようにって願えば、
叶えてあげたくなるじゃない?
でも、それは医者の仕事って、
胸に刻むまで時間掛かったわ。
国でしょ?できないの?!って、
若かった私は上に文句言ってたわ」
「私も同じ。
戦争がなくなりますように…
世界平和も叶えたいけど…無力よね。
国でもできることに制限があるなんて…」
「……暗い暗い!
さあ、他に面白かったのなかった?」
「私ばっかり言ってるんだけど、
そっちはどうなの?」
「私もあるけど…
何ていうか…これ見た瞬間、
自分は汚れたなあって思っちゃって」
「何その意味深発言。
どんな願い事?」
「愛媛県砥部町の男の子だったんだけど、
犬になりたい
って書いてあって」
「うわ~私もだわ。
もう活字を純粋に受け取れないのね。
この歳になると」
「富山県氷見市の50代男性が、
いくら飲んでも壊れぬ体
に共感しちゃったり」
「わかる!
年代が近い願い事って、
同調しやすいのよね。
本当にそこがこの仕事の難しいところ」
「うちらベテランになったのかも」
「短冊選考のベテランって何?」
「そうよね。
二人しかいないし」
「どれ、
そろそろお開きにします?」
「じゃあまた恒例のだね」
「ジャンケンで負けた方が、
ここの払いを持つってことで」
「もちろん…行くよ!
最初はグー!」
「ジャンケンポン!」
「ジャンケンポン!」
「私の勝ちね」
「じゃあ、お願いします」
「OK!
私の個人賞は、
またお子さんなんだけど、
埼玉県越谷市の高橋大和くんの、
ママがロボットになりませんように
これどう?」
「これ私、深いなあって思った。
子供ってほんとよく大人を見てるよね。
親が見てるつもりでいると、
ふとしたひと言にドキッとさせられるの」
「そう…だから今年はこれ!
優しい男の子なんだと思う。
私の想像でしかないけど」
「じゃあ、どうするの?」
「大丈夫、もう決めてるから」
「あっ!
また勝手にエージェント情報、
盗み見たでしょ?」
「何をいまさら、毎年のことじゃない。
あなたもしてるでしょ」
「まあ、そうなんだけどね」
プルルルルル ガチャ!
「はい。埼玉支部の佐藤です」
「すいません、総括のものです。
ちょっと今年も、
個人的なお願いしてもいい?」
「もちろん、いいですよ。
うちは5年ぶりですね」
「そんな経つんだ。
でね、埼玉県越谷市の高橋大和くんって、
やまとはあの戦艦の大きいに和むって」
「はいはい、高橋大和くんですね。
何を送りますか?」
「ママがロボットになりませんようにって、
お願いするお母さん想いの男の子だから、
最新型のルンバ送って貰っていい?」
「わかりました。
すぐに手配して、
上手くお渡ししておきます」
「ありがとう。支払いは私の方で」
「はい。毎年、熱心ですね。
あしなが姉さん」
「お姉さん?お上手ね」
「姉御でもいいんですけどね。
では、確かに承りました。
責任持ってお届けします。
それでは、お疲れ様でした」
「ありがとう、よろしくね」
ガチャ
「終わった~」
「お疲れ様。
そしてこれはおみや」
「何?ありがとう。
いつの間に」
「これお子さんの好物でしょ?」
「これほんと喜ぶのよ。
ひとりで全部食べちゃうくらい」
「良かった」
「じゃあ、また来年かな」
「そうね。
まあ連絡するけど」
「じゃあ…また…」
「じゃあ…またね」
プルルルルル
「はい。何です珍しい。
え?!はあ?何それ?!
聞いてませんけど。
えっ?!今年から?
決まりなんですか?
そうですか…わかりました。
彼女にも伝えておきます。
はい」
ガチャッ
「どうしたの?」
「来月も、うちら仕事だって」
「え?七夕終わりでしょ?
何で?」
「北海道は1ヶ月後に、
七夕をするところがあるから、
そっちの集計もしろって」
「そうなの?」
「旧暦の七夕だって」
「フフフ。
まあそういうことなら、
来月もよろしく」
「フッ。そうね。
またよろしくね相棒」