日付変更線をまたいでいる人の「時間」はどうなる?ーー東大出身の理学博士が素朴で難しい問いを物理の言葉で語るエッセイ「ミクロコスモスより」㊴
現在、世界の時刻は「協定世界時(UTC)」を基準に定められており、地球がほぼ24時間(これを1日と呼んでいます)で一周分自転をするため、地域ごとに適切な時差が付けられています。
さらに、地球は太陽の周りをほぼ365日(これを1年と呼んでいます)かけて一周分公転しますが、公転の中で現在どこの場所に相当するかを明確にするために「日付」の概念が使われます。
日付の原点をグリニッジ天文台に取ると、地球の反対側は時刻がちょうど半日分ずれることになります。
日付変更線の役割
さて、イギリスから出発して地球の裏側へ行くとき、西に向かっていけばより早い時刻に、逆に東に向かっていけばより遅い時刻になります。
ちょうど地球の裏側を通過するとき、西に向かった人はより早い時刻となっているはずが「過去に戻ってしまった」ことになるので、どこかで1日未来に進まないとつじつまが合わなくなります。
東に向かった人に関しても同様に、1日過去に戻らないといけません。これを行う境目として規定されているのが「日付変更線」です。
ちなみに、ここでは、移動にかかる時間は考慮しません。地球の自転から考えると、西に向かって時速1700kmで走ってようやく太陽の見かけ上の移動速度に追いつきます。飛行機の速度はたかだか時速1000km程度なので、「太陽を追い越す」ような移動の仕方は現実的には困難です。なお、光の速度に近づき、いわゆる相対論効果を考慮しなければならなくなるのは時速106kmほどからなので、こちらも考慮しません。
「お天道さまと追いかけっこ」ができるようになったら
さて、普段飛行機で移動するぶんには、日付変更線を不思議に思うことはありません。
24時間以内に日付変更線を複数回またぐようなことはないからです。
しかし、今後超高速ジェット機が作られたとして、文字通り「お天道さまと追いかけっこ」ができるようになったらどうでしょうか。1月1日の正午にイギリスを飛び立ち、ちょうど太陽が真上にいるような速度を保って24時間西周りで飛び続け、再びイギリスに降り立つと、現地では1月2日の正午になっており、確かに24時間飛行したので1日経ったことになるわけです。飛行中一度だけ日付変更線を越えており、それも辻褄が合います。
それでは、ジェット機の速度が2倍になったらどうでしょうか。
24時間飛行し、翌日に着陸する点では一緒ですが、日付変更線は2回越えることになります。これは一見矛盾するようですが、地球を2周回る間に2日分過去にさかのぼっていることになるので、結局名実ともに1日経過しています。
東周りでも同じことが言えます。さらには、地球を何周しても、どのようなルートで周回をしても、多かれ少なかれ同じことが言えます。
結局、仮に日付変更線を何度もまたぐことができたとしても、協定世界時(UTC)が定められている限り、地球上のすべての時間はそれに同期されるようになっているのです。
厳密には、重力場の大きさによって地球上でも時間の進み方にはばらつきがあります。しかし、あまりにも小さい効果なので、人類がその影響を受けることはないでしょう(東京スカイツリーにおける時間の差を測定し、一般相対性理論を検証した東京大学の実験があります)。
プロフィール
小澤直也(おざわ・なおや)
1995年生まれ。博士(理学)。
東京大学理学部物理学科卒業、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。
現在も、とある研究室で研究を続ける。
7歳よりピアノを習い始め、現在も趣味として継続中。主にクラシック(古典派)や現代曲に興味があり、最近は作曲にも取り組む。