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大学生のための速読法(概要&書評)

1 趣旨

 慶應通信に入学してから逐次テキスト学習を進めてはいますが、率直なところあまり頭に定着できている気がしません。特に、自分の興味が比較的乗っていない科目はその傾向が顕著であるように思われます。
 それだけでなく、テキストにレポートのための参考文献に仕事用の勉強の本に自分の趣味の本にと、「積み本」がどんどん溜まってきている現状です。読むスピードより読みたい本が増える速度の方が速く、買ったけど読んでいない本が溜まり続ける状況は精神的ストレスにもなり、是非とも何らかのブレイクスルーを得なければならないと危惧していました。
 そんな中、夏季スクーリングの際に大学生協の売店で「大学生のための速読法」(松崎久純、慶応義塾大学出版会)という本が目に止まりました。まさに今の自分にうってつけの本だと思い、パラパラと確認したところ良さそうだったので即購入し読破しました。
 速読法という性質上、自分の中である程度形式知化してから反復練習することが必要だと思いましたので、自分用にまとめ公開します。

2 本書の概要

2.1 第1章 速読とは

2.1.1 速読を身に付けるにあたって
 速読できるようになるとは、「スキルを身に付けること」を意味する。
 スキルは、
  ・ 原則:ノウハウが取りまとめられ、「お手本」とされているもの
  ・ バックグラウンド:原則がなぜ存在し、必要とされているのかを説明するもの
  ・ How To:原則を実践し役立たせる方法
 の3要素から構成される。あるスキルを身に付けようとするならば、各要素のそれぞれを意識することが必要である。 
 本書では、速読を「全体像を捉えた上で読み手又は書き手にとって必要なポイントを素早く読み取ること」と定義する。速読法「リーディングハニー」は、「読み方に工夫を加えることで、素早く必要な情報を読み取っていく」方法である。

2.1.2 速読についての考え方
 読むスキルは、4レベルに大別することができる。レベル4「どんな本でも日常的に素早く読める」に到達するためには、難解な本や自分の専門外の本など、「自分にとって難しい本」を読む際の「苦痛」を取り除くことが必要である。これは苦痛なく読める本を読んでいるだけでは実現できず、自分のステージより上の文章を読む練習を意識的に行う必要がある
 読むことが苦痛になる原因は、一字一句最初から読んで理解しようとしてしまうことにある。初めに本の全体像を把握して「何の話か理解できている状態」を最初に作り上げなければならない。そのため、読み始める前に、
 ・ 使われている言葉から、本におおよそ何が書かれているのか把握する
 ・ 全体がどんな構成になっていて、どのように話が展開するか把握する
 ・ 所々どんな話が出てくるのか把握する
ことが必要である。これらができていれば、読む際に「自分にとって大切なポイント」または「著者の述べるポイント」に注目して読んでいくことができる。

2.2 リーディングハニー6つのステップ

 リーディングハニーでは、6つのステップに分けて本の全体を繰り返し流し、アウトラインの把握から細部の読解へと進んでいく。本の文章をしっかり読むのは、第5ステップの「スピードリーディング」以降に限り、それまでは基本的に文章をまじまじと読んではいけない。

2.2.1 プレビュー(3~5分)
 本の本文以外の場所(カバーや帯、ページ数、奥付、著者紹介、前書き・後書き、解説、索引、参考文献、目次)から、何が書いてありそうな本か、イメージを捉える。
2.2.2 オーバービュー(10分)
 1ページ1秒ペースを目安に全ページを2周確認し、「おおよそどんな事が書かれているか」「本全体の構成」「各章各節の文量」を把握する。見出し・小見出しや太字の箇所は特に意識して見ていく。2周したら、改めて目次を確認し、全体の構造を再度把握して解像度を上げる。
 これにより、どんなことが書かれた本か、どんな構成かに見当が付き、読みたい本かどうかがわかる。
2.2.3 スキミング1(10~15分)
 本文すべてを指で追いながら、ポイントと思われる箇所や、後でもっと読むことになりそうだと思った所に印をつけていく。所要時間は1ページ2~3秒で、気になる箇所は読んでも1~3行にとどめる。この段階で精読してはいけない。必要に応じて目次を再確認する。
 これにより、本の構成がおおよそ捉えられ、どんなことが書かれているのか見当がついてくる。
2.2.4 スキミング2(10~15分)
 「質問設定型」(自分で問いを設定し、スキミングで答えを探す)か「受け身型」(著者が述べるポイントを掴む)かを、その本を読む目的やその本に対する自身の知識水準に応じて決定し、答えやポイントを探しながらスキミング1と同じスピードで本文全てを指で追う。
 これにより、本の構成やどんなことが書かれたかについて、よく把握できた状態になり、自分で設定した問いの答えや著者の述べるポイントについてもおおよそ把握することができる。
 この段階で、本に書かれた詳細まで理解できている必要はない。
2.2.5 スピードリーディング(30~40分)
 本文を一気に読んでいく。必要でない箇所を読み飛ばしたり、チェック箇所のみを読んだりしてもよい。
 読みながら、質問の答えやポイントと思う箇所をチェックする。判断に迷った場合は一応チェックする。
 チェックしたところはレビューのステップで読み直す機会があるため、読むとは言っても完全に理解する必要はない。
2.2.6 レビュー(10分)
 チェックした箇所を読み直して完全に理解する。難解な本に取り組む場合は、1~4のステップに時間を増配するのではなく、5、6ステップの時間を長く取った方がよい。
2.2.7 プラスアルファのアドバイス
・ ページ数が多い場合や論文集などは章ごとに行ってよい。
・ 練習はできるだけ簡単な本や自分の得意分野の本で行う。
・ ステップ1~4はできるだけ1日で行う

2.3 実践応用編

 リーディングハニーは、講義の配布資料、ネットのプリント記事、新聞記事、論文等にも適用できる。適用の際は、それぞれの資料等の特性を理解し、各ステップの時間を適宜調整する。

3 書評等

3.1 速読の定義と速読にアプローチする考え方について

 速読法といっても、目の動かし方がどうとか、n行ずつ読んでいくだとか、ページ全体を画像として捉えるだとか、そうしたテクニック的なアプローチには元々懐疑的でした。それで脳の処理能力そのものが上がる訳ではありませんから。一方、本書の提示する「まず全体を把握できた状態を確立してから読んでいく」という速読の定義はなるほどと思わされます。
 例えどれだけ高速で文字情報をインプットできても、そこに何らかの理解が伴っていなければ意味がありません。小手先のテクニックでは理解力そのものは向上しないはずで、「本の細部を理解できるだけの素地を段階的に作っていくことで結果として速読を実現する」という本書のアプローチは、地味ではあるものの理にかなっているといえます。
 ただ、本書の原則・バックグラウンド・HowToの3要素の説明については、原則とHowToの説明に同じノウハウという言葉が使われているなど、若干洗練されていないように感じました。速読の場合であれば、
 ・原則:速読を実現する上での考え方
 ・バックグラウンド:何故そのような考え方になっているのか
 ・HowTo:現実の読書に原則を適用する要領
と説明した方が理解しやすいのではないかと思いました。

3.2 6つのステップについて

 「何度も頭から流しながら、大枠から細部へ、理解の解像度を上げていく」というリーディングハニーのアプローチは、山口真由氏の「7回読み勉強法」とも共通するところがあります。

 7回読み勉強法は「勉強法」と銘打たれていますが、当初は見出しなどから全体像を掴み、読み返しながら全体像→構成→キーワード→キーワードの説明、とより細部にフォーカスしていく読書術であるともいえます。
 ただ、リーディングハニーの方が、実際の読書に適用する際のHowToがより明確にマニュアル化されており、各段階でどこに注目してどう読むかが分かりやすいため、多くの人にとって実際の本を使った練習に取っつきやすいのではないかと思います。
 一方、チェックなどの作業が不要であるという点においては、7回読みの方が敷居が低い面もあるでしょう。目次や見出し、前書きや後書きなどからアウトラインを把握することが習慣化している人であれば、恐らくどちらにも違和感なく対応できるし、既に近いことをやっているのではないかと思います。
 リーディングハニーの具体的な要領で個人的に新たな発見があったのは、奥付や参考文献、索引、各章・節のページ配分なども、アウトラインを掴むための情報源として活用できることです。これは7回読み勉強法では取り上げられていない要素です。目次や前書き・後書きを確認して読むべき本か判断するのは私もやっていましたが、いきなり読み始めるよりも効率的そうですし、それだけで読むべきか判断できる場合も増えるかもしれません。
 いずれにせよ、リーディングハニーであれ、7回読みであれ、先述したアプローチの方向性にあまり違いはないと思われます。つまり、アウトラインから細部に理解の幅と深さを広げていくことが必要不可欠であり、どこかを飛ばしたり、理解不十分なまま次のステップに進もうとしても理解につながらない。アウトラインから細部まで、どこかの理解に断絶がある状態でどれだけ読んでも知識として定着しないということです。
 また、リーディングハニーは練習のやり方として、予備知識がなくても簡単に読める本や得意分野の本、読みたいと思っていた本などを使うことをすすめていますが、これらに加えて「以前に一度読んだが完全に理解できていない本」「読み直したいと思っている本」などでも有効かと思います。それらの本は言わば既にアウトラインを掴めている状態なので、規定の時間を守って読んでいく感覚が掴みやすくなると思われます。

3.3 この速読法の有用性と限界

 スキミング2でのフォーカスの設定を変えることで、受け身のテキスト学習から焦点を絞っての試験勉強、問いを立ててのレポート作成まで、幅広い用途に活用できるという点において、リーディングハニーは非常に有用であるといえます。特に、時間が限られる中、自分で能動的に学習していかなければならない通信制大学の学生にとって、効率化のメリットは大きいものです。
 ただし、リーディングハニーはあくまで自分の持てる理解力を引き出し、苦痛を回避して効率良く読むことをめざす読書術です。自分の理解力や知識がそもそも読もうとする本に対して隔絶している状態では、パラパラとめくった程度でアウトラインを掴むことは難しく、おそらく先のステップに進むことができなくなると思います。このような場合は読書術ではどうにもならないので、読む本のレベルを入門書のような更に低いものに落とす対応が必要になるでしょう。
(その状態では結局一から読んだとしても理解できないので、プレビューやオーバービューで無理だと思ったら切り捨て、余計な時間を食わないようにできる、という点では、限界がありつつもやはり有用といえそうです)
 結局、読書や勉強に楽な近道は無いということかもしれません。

4 おわりに

 これまでも前書き・後書きや目次などに注目して、読むべき本か否かを判断したり全体像を掴む着意は持っているつもりでしたが、今までの自分はそこで全体像を掴めない場合に、「やはり横着せず一から読まなければ」という思考にどうしても陥ってしまっていました。
 「本ははじめから一字一句順番に理解していくものである」という先入観は、多くの人が持っていると思います。特に自費で購入した本は、「勿体ない」という思いから、何とか無理矢理にでも読んで理解しようと苦行のような読書をすることが私の場合しばしばありますが、そうやって「読んだ」という体にしても、結局後々知識として役に立ったケースを思い出せません。
 まずはアウトラインを掴めるかどうか一度試し、取っ掛かりが掴めそうにないなら今の自分のレベルでは無理な本だと判断して引き返すことができれば、自分の読解力のレベルを地味に上げつつ、効率的な読書を進めていけるのではないかと思いました。
 まずは今積んでいる本のうち、なるべく簡単な本で練習を重ねつつ、気付いた点を本項にアップデートしていこうと思います。

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