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工業デザイナーとして独立するときにおすすめのこと
はじめに
この記事を読んでくださっている方には、いずれは工業デザイナーとして独立してみたいと考えている人がいるかもしれません。その人たちのために、というと偉そうなのですが……自分が独立した時にやって良かったこと、これをやっておいたらよかったなぁということをまとめてみました。なんとなく20代中盤くらいの人をターゲットに書いてみます。10年前の自分くらいですね。
※この記事の画像はすべてAdobe Fireflyを使ってAI生成したものです
1. 実務経験を積む
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フリーランスとして仕事をする上で、やはり必要になるのはある程度の実務経験です。
どのようなスキルが必要か細かくまとめることはこの文章ではしませんが、例えばデザイン会社で働いていたとか、メーカーのデザイン部門で働いていたとかいうような経験があると自信や周囲からの評価につながりますし、何より自分が仕事を受けて納品するまでの流れをクライアント目線で想像できることが、仕事を進めるうえでポイントになります。
ある程度以上の規模のプロジェクトは、どんな体制で行うにしても作業をする人と意思決定をする人が分かれています。作業する人(例えばデザイナー)が作ったものを意思決定者(例えばクライアント)に提出し評価を受けた上で、次の段階に進んだり差し戻したりするわけです。デザイナーとして優れたセンスやスキルを持っていることに加えて、チームの一員として仕事をするために、いわゆる報連相的な社会人スキルは必要になります。
古くからあるビジネスマナー的なもの、例えば飲み会やタクシーにおける上座下座、名刺交換の順番だとか……そういう細かいルールについては今でも(どっちでもいいじゃんね)と思うのですが、早めの報告・連絡・相談はガチでできたほうがいいです。
2. ポートフォリオを作る
デザイナーとして独立すると、最初はクライアントワーク、つまり仕事を受託して進めることで報酬を得るという場合が多いと思います。引く手あまたの人気クリエイターでなければ、他人に対して売り込みをする必要が出てきます。この時に便利になるのがポートフォリオというツールです。
単に自分の事例をきれいにまとめたものというよりも、
自分はどんな人材で(経歴や得意分野、性格など)
何ができて(スキルや使えるツール、センスの方向性など)
相手にどのように役立つのか(貢献できること、提供できるもの)
が見やすくまとまっていると非常によいと思います。デザイン会社によっては事例だけでなく、営業資料的なものもウェブサイト上に公開しているところがありますので、それも非常に参考になります。
ただ、自分が元いた会社で手掛けた仕事をどこまで掲載してよいかについては、その権利を持っている人(上司など)とよく相談の上で行ってください。プロダクトデザイナーは相手の会社の未公開情報を預かって仕事をするという職務上の性質があります。そのため、情報の取り扱いが丁寧ではないとみなされてしまうと、逆に信頼を失ってしまうパターンもあるからです。
3.設備を整える
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非常に大事なことです。工業デザイナーは建築家と違って免許がいらないから、名乗り始めればすぐなれるということを大学の恩師が言っていたのですが、やはり道具がないと始まりません。
パソコン
CADなどをバリバリやっていくタイプのデザイナーかどうかによって異なりますが、ある程度ハイスペックなものがあった方が良いです。少なくともSlackやMessenger、メールなどのコミュニケーションツールとAdobe系のソフトを同時に使える程度のスペックはあって損はないでしょう。
僕のいまのメインPCはM1時代のMac Studioです。かなり背伸びして買いましたが、とても満足しています。僕は主にFusion360というCADを使っており、FusionやSolidworksのようなパラメトリックモデリングを行うCADでは履歴を遡ったり戻ったりして造形を行うため、その間の待ち時間をPCの性能によって短縮することができます。 また、 レンダリングイメージの作成やビデオ会議をしながらのCAD画面共有等もスムーズに行うことができます。
ただ最近はApple製品の値上がりが非常に激しいため、WindowsでゲーミングPCやハイスペックノートPCを購入したり、BTOでパソコンを組んでもらったりするのも選択肢の1つかと思います。
プリンタ
近年は資料を紙の形で持っていくことが非常に少ないので不要かと思うかもしれませんが、書類をプリントしたりスキャンしたりすることが意外とあります。また、ボール紙を切ったりするときの型紙をプリントしたりなど、思ったよりも使う機会は多いので、複合機を1台持っておくと良いと思います。
3Dプリンタ
僕はこの道具が非常に好きでとてもよく使っています。
サイズに制限はありますが、CADで作った造形をそのまま形にすることができ、さらに造形朝は他の仕事をできるため時間の節約にもなります。 デジタルファブリケーション に興味があるかどうかで3Dプリンタに対してどのぐらい積極的に関わるかは変わってくると思いますが、ここ数年で 15万円以下程度の価格帯の3Dプリンタの性能が非常に向上しているため、1台持っていて損はないと思います。
また少々マニアックな話になりますが、3Dプリンタを複数台持っていると、 1度に複数のモックアップを出力できるため非常に便利です。1台しか持っていないとそれが壊れたときに非常に心細い思いをすることになりますが、2台あれば安心です。
23年後半現在での、個人的なおすすめブランドはPrusaかBambu Labです。
Prusaは3Dプリンタの発展に非常に寄与したメーカーで、オープンソースハードウェアという考え方のもとに、本体を構成する部品の3Dデータを(修理用や改造用に)公開しています。造形品質とカスタマイズ性が非常に高く、安定した稼働が見込めます。どのプリンタでもそうですが、ヘビーユースしていると必ず故障します。Prusaの3Dプリンターは、インターネット上に修理するための情報が非常にたくさんあるので、 他のプリンターに比べて楽に修理を行うことができます。
Bambu Labは中国のメーカーで、Prusaに影響を受けたと言われるメーカーの一つです。 出力速度が非常に速く、また品質もPrusaと同程度かそれ以上に良いようです。 実は僕はこのプリンターを持っていないのですが、次に買うならこのメーカーかなと考えています。 オープンソースコミュニティやハッカー文化に興味があるならPrusa、 安定した出力に興味がある場合はBambuと考えてもよいでしょう。
20,000〜30,000円程度の安いプリンタもたくさんありますが、個人的にはあまり安物買いをしない方が良いかなと思っています。
モデリング用品
3Dプリンターにだいぶ頼っていますが、紙やスタイロフォームを使ったモックづくりを行うときもあります。筆記具以外に、以下に挙げるような工作用品はとりあえず揃えるとよいでしょう。
カッターと替刃、カッター刃折り機
方眼定規(50cm程度のもの。カッターで直角にものを切りやすい)
必要に応じて、それ以上の長さの定規
三角定規(たまに必要になります)
はさみ(テープがつかないタイプのものがよい)
カッターマット(1枚大きなものがあると便利)
マスキングテープ
両面テープ
養生テープかガムテープ
ポストイット
スタイロフォームとスタイロカッター(場合によってはいらないかも…?)
机と椅子
重要性を見逃しがちですが、意外と大事です。特に30代に入ってくると、机と椅子によって体力の削られ方が変わってきます。 とはいえいきなり高級品を購入するのはハードルが高いので、IKEAや無印良品などで揃えはじめるので十分だと思います。椅子はダイニングチェアではなく、リクライニングや高さ調整ができるオフィスチェアを買いましょう。 ダイニングチェアで1日中仕事をしていると腰がバキバキになります。(これは僕が貧弱なせいかも)
もしオフィスに空きがあるなら、打ち合わせスペースは別に設けておくことをおすすめします。 メーカーで仕事していると協力会社さんが訪ねて来てくれることが多いですが、独立して仕事をすると自分が訪ねて行くことになります。 最近はリモートの打ち合わせも増えましたが、プロダクトデザイナーは物理的なものを扱う仕事なので、対面の打ち合わせは欠かせません。打合せのたびに毎回外出しているとそれだけで1日が終わってしまうので、ときにはクライアントさんを呼べるように打ち合わせスペースがあると便利です。
色見本
「なくてもなんとかなるけどあった方が便利なもの」の筆頭が色見本です。PANTONEやDIC、日塗工のカラーチップをはじめ、JIDAのシボ見本や、街で見かけた気になる色や質感の現物サンプルなどがあるとよいですが、必要になったら買う、というくらいでよいのかなと思います。(PANTONEのブック、10万円くらいするし)
ここで説明したツールは独立していなくても便利に使えるので、 独立すると同時に一気に買うのではなく、少しずつ準備を整えていって大きな出費を避けるのがよいと思います。
4. お金について
みもふたもない話ですが、やはりお金は重要です。上で挙げた必要な道具を合算していくと、それだけで何十万円にもなって泡を吹きそうになりますが、 それに加えて自分の生活費ももちろんかかります。 僕の場合は、収入が安定している会社員からいきなりフリーランスになったので、 仕事が少ない最初のうちはお金がどんどん減っていって愕然としたものでした。
よく言われるのは、自分の生活費のミニマムを計算して、例えば半年や1年は収入がなくても暮らせるだけの貯金があるとよいという話です。 どれだけの蓄えが必要かは人によると思いますが、お金が少なくなってくると心の余裕もなくなってくるもので、 あまり自分を金銭的に追い詰めないで済むように準備をしておくほうが確実でしょう。
貯金とは少し話がそれますが、もし今会社員や学生なのだとしたら、独立前に自分用の口座をもう一つと、その口座に紐づいたクレジットカードを作っておくことを強くおすすめします。
生活用の口座と仕事用の口座が一つだと、どのお金が生活のためで、どのお金が仕事のためにかかったのかを後から判断するのが非常に面倒くさくなります。
そのため、仕事用の口座を作って仕事のために必要なものは全てその口座で買う、仕事の報酬は全てその口座に振り込んでもらうというふうにすると、会計ソフトをその口座に連携するだけで、仕事に関するお金の流れを全て把握できるようになります。
また世知辛いもので、独立したばかりの個人事業主だとカードの審査に普通に落ちたりするので、会社員や学生など後ろ盾のある身分であるうちにクレジットカードを作っておいた方が良いです。これはマジ。
5. PRをする
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上でも述べましたが、もし自分が超人気クリエイターでない場合は営業活動が必要になります。以下にその方法を簡単にまとめます。
webサイトを作る
ポートフォリオよりも先にこちらが必要と言っても過言ではないかもしれません。web上に自分の情報がまとまっている場所があると、ぱっと見たときの信用も上がりますし、クライアントがこの人に仕事をお願いしようと考えるときの判断材料にもなります。 Adobe PortfolioやSquarespace、StudioやCargoなどのwebサイト制作ツールは非常に強い味方になってくれます。とはいえ月額でお金がかかるので、どのようにサービスを使うのかはよく考えてみてください。
知り合いを増やす
独立してすぐは、おそらく時間が余っていることと思います。興味のある展示に出かけてみたり、イベントに出かけて人と話してみたりすることで、知り合いが増えコネクションも多くなりますし新しい知見も深まります。 知り合いを増やすことで仕事が増えるなんてシンプルなことがあるのかいなと思うかもしれませんが、行く先々で仕事をしたいしたいと言っていれば、意外と少しずつ仕事が舞い込んできたりするものです。うれしい。
コンペに応募する
片っ端から、というわけには行かないかもしれませんが、公募のコンペに応募してみるのは腕試しの機会になります。賞金が出るものやよい企業さんと仕事ができるものなど、自分の興味がある分野を探してチャレンジしてみてください。(ちなみに僕はコンペにぜんぜん引っかからなかったため、デザイン一本のデザイナーではなく方向性を変えました。そういう効果もある…笑)
SNSで発信する
狙ってバズることやフォロワー稼ぎを目的にしてしまうと本末転倒ですが、SNSは非常に強力なPRの手段です。X(旧Twitter)、Instagram、Facebookのアカウントは作っておいて損はないはずです。また、SNSをうまく使うことで、デザイナーやクリエイター同士の横のつながりも効果的に増やすこともできるでしょう。 仕事の窓口を各SNSのDMに設置しておくかどうかは悩みどころですが、工業デザイナーの場合はメールアドレスやwebサイトの問い合わせフォームから仕事を受けられるようにしておくとベターだと思います。
ブログやnoteを書く
まさに僕が今やっていることです。
SNSで発信することももちろん大事ですが、ある程度尺の長いまとまった文章を書いて伝えることで、その人の考えていることが深くわかりますし、 長い文章を書くことは頭の中を整理して伝えるための練習にもなって一石二鳥です。近年SNSでの情報伝達がファストフードのようにますます細切れになっているため、長くてまとまりのある文章(食べるのに時間がかかるが栄養のある料理のイメージ)を発信できるのは個性になるでしょう。
おわりに
ということで、独立するときにおすすめのことを書いてみました。
あくまで僕個人の経験に基づいているので偏りがありますが、何かの参考になれば幸いです。 23年現在、正直工業デザイナーは需要減少と供給過多で厳しい業態ですが、自分の思ったとおりに動けるフリーランスはとても楽しいです。ただ、向き不向きは確実にあるので自分とよく相談してみてくださいね。
それでは、もしどこかでお会いすることがあればよろしくお願いします!