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海底が職場。過酷な環境で働く機械、"ゾンデ"をあなたは知っていますか?

突然ですが皆さん "ゾンデ" って言葉を聞いたことはありますか?
おそらくほとんどの方が初めてみた言葉の並びではないでしょうか。

正式名称はネットゾンデ。ネットとは漁網を意味していて、ネットセンサーの一種です。実はこの製品、フルノ社員でも詳しく知っている人は限られています。ですが、ゾンデは漁業に効率化をもたらした画期的な製品なのだそう。今回はそんな知られざるゾンデの世界についてお話しします。

魚を見つけてからが難しい?

このnoteでも何度か紹介させていただいていますが、古野電気が世界で初めて実用化した魚群探知機は漁業の世界に革命を起こしました。それまで勘と経験で魚を探していた漁業の形が変わり、魚群の場所・深さや大きさまで分かるようになりました。

しかし魚を見つけただけではまだ真の成功ではありません。実際に漁獲することで初めて漁師さんの利益となります。漁のやり方は沢山ありますが、大きな魚群を一網打尽にするには主に漁網が使われます。この漁網をうまく使いこなせられるかどうかは漁獲高や操業効率に大きく影響します。

何せ網を入れるのは海の中、当然目には見えません。
海中で上手く広がっているか、魚群がしっかり網の中に入っているか、どのタイミングで網を上げようか、海底に引っかかって破れてはないだろうか・・・
そんな沢山の心配が漁師さんを悩ませていました。

そんな悩みを解決すべく作られたのがネットゾンデです。

網をうまく広げることは漁獲高などに大きく影響します

海の中で自身をアピールするユニークな製品

このネットゾンデ、主に巻き網漁業という漁法の際に活用されます。巻き網漁網とは魚群の逃路を絶つように網で周囲を包囲し、次第に網の底の方を絞って魚群を海面に引き上げて捕える漁法です。

巻き網漁業では船団が組まれ、魚群を探す「探索船」、光で魚を集める「灯船」、網を投下する「網船」などさまざまな役割を持って漁を行う。アジやサバ、イワシなど大群で回遊する魚が主なターゲット。

この漁を行うときに重要なのが「魚群と網底の位置関係」を把握することです。
せっかく魚群を見つけて網で囲っても、網底を絞るときに魚群が網底よりも下になってしまうと大半に逃げられてしまいます。逆に深くまで網を下ろしすぎると海底に引っかかるリスクが増えてしまいます。魚群の大きさや位置に対して、適切な網のサイズと絞るタイミングが求められるのです。

そこで登場するのが今回の主役、ネットゾンデです。
ネットゾンデは網底に取り付けられ、なんと漁が始まったら網と一緒に海の中に投下されます。そしてそのまま海底まで沈められます。
ゾンデは超音波を使って網の深さ情報などを船に送ります。つまり漁師さんは魚群探知機を使って、狙いの魚群の位置や海底の深さを知り、ゾンデを使って網底の深さを知ることで魚群と網と海底の位置関係が適正かどうか知ることができるのです。

そうして網底を絞るタイミングの把握や網が海底に引っかかることによる破網防止、あるいは海底起伏の激しい漁場でも操業できるようになりました。

ネットゾンデ FNZ-38
写真右側の黄色いブイのようなものがゾンデの発信器
網とともに海中に沈み、深度情報などの計測と情報の送信を行う
海底にぶつかっても壊れないように頑丈に作られています。
ネットゾンデの設置イメージ
船に対してオモテ(正面)、トモ(後ろ)、センター(真横)の3点に設置されることが多い

ちなみにネットセンサーにはゾンデの他にネットレコーダーというものもあります。こちらは主に底引き網漁やトロール網漁といった船で網を曳きながら魚を捕える漁法に使用されます。
網口に直接取り付けたセンサーで網口の開き具合や網に入る魚群の情報を取得し、船側に伝達することで、網を引き上げるタイミングの把握に役立ちます。現在ネットレコーダー自体は販売終了していますが、同様の機能を持つMarport社の製品を販売しています。

ネットレコーダーの仕組み
網口に魚群探知機を付け、その映像を遠隔で見ているようなイメージ

ネットセンサーはどのように誕生した?

網の深さを知りたいということは昔から漁師さんの願いでした。そのため1960年頃にはすでに網の深度を計測するためのセンサーがあったそうです。
しかし当時は有線式のネットゾンデで、そのケーブルが網に巻きついたり、網を引き上げる際に切れてしまったりとずいぶん扱いに困ったそうです。
そのため、無線式のゾンデの登場が待ち望まれていましたが、海外では無線方式が失敗した結果として有線式が採用されていた先例などがあり、無線式は困難視されていました。

しかし、顧客が望んでいる以上、諦めないのがフルノのエンジニア魂

水産庁との共同研究で実験を重ね、1961年に世界初の無線式ネットゾンデの開発に成功しました。前項でも紹介しましたが、その通信方式は超音波。魚探開発の経験がここでも活きていますね。

このネットゾンデは水圧計で得た水深情報を送り、魚群探知機の記録紙上にその深さが一本の線でスーッと出るだけでした。
また1965年には無線式のネットレコーダーも開発・販売。
ネットゾンデ・ネットレコーダーともに無線式は本当に画期的だったそうで、全国の漁師さんが「こんなものがあると便利だ」と思っていた機種であり、1967年にはその独創的な技術が高く評価され「毎日工業技術奨励賞」を受賞しています。

「ネットレコーダーの開発」で毎日工業技術奨励賞を受賞
ネットゾンデを検査する当時の技術者の姿

時代とともに進化してきたゾンデ

世界初の無線式ネットゾンデを世に出して60年以上が経過しました。その間も漁業は発展を続け、必要とされる情報量が増加していきます。同時に最初は真空管で作られていたゾンデも半導体や通信技術の進歩とともに改良を重ねられていきました。

例えば現在のゾンデでは網の深度だけでなく、水温や海底までの距離、沈降速度といった情報を取得しています。さらに魚群探知機の画面上でそれらの情報をグラフィックを駆使して表示することでより直感的に網と魚群の位置関係を漁業者に伝えています。

魚探の画面にネットゾンデからの情報(網深度)を表示した映像
メーターやグラフを用いて情報を漁業者に伝える

他にもゾンデの発信器の傾斜角のメーター表示、この表示方法はエンジニアと漁業者によるユーザー評価の二人三脚で生み出された機能です。網が海底に着いたことが感覚で分かると現場で非常に好評を得ています。
また機能だけでなく、軽量化や動作時間の向上なども進み、漁業者の負担軽減にも繋がっています。

ユーザー評価の上、搭載された傾斜角メーター。
フルノのモットー"現場種技げんばしゅぎ"がここにも体現されています。

さて、今回は "ゾンデ" というユニークな製品についてお話させていただきました。もしテレビ番組などで網をつかった漁業のシーンを見た際は「あ、この網の下ではゾンデが活躍しているんだな」と思い出してもらえると嬉しいです。
縁の下ならぬ、網の下の力持ち、ゾンデを特集しました!

執筆 津島 和亮
編集 高津こうづ みなと

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