日本人セーラーを支えた"トラッキングシステム" その裏側を大特集!!
あまり普段人目に付かない古野電気ですが(自分で言ってて少し悲しい)、
2021年および2022年、2人の日本人セーラーの偉業とともに世間の注目を少し浴びる機会がありました。
その偉業とは「辛坊 治郎さんの単独無寄港太平洋横断(往復)」
そして「堀江 謙一さんの世界最高齢での単独無寄港太平洋横断」の達成。
FURUNOは衛星通信を活用したトラッキングシステムをヨットに設置し、webサイト上で太平洋上でのヨットの位置や速度、ヨットの向きといった情報をリアルタイムで掲載していました。
お二方の航海も終わり、トラッキングシステムの担当者も落ち着いたであろう頃合いを見計らってお話を伺ってみました。
衛星通信を利用したトラッキングシステム
今回お話しを伺ったのは舶用機器事業部 デジタライゼーション推進部(以降デジ部)の小嶋さんと住田さん。
部署名からして何か知的な感じ、
"衛星通信を利用したトラッキングシステム"という、なんか分かりそうで分からないような用語も簡素に解説してもらえそうな気がします。
-まずトラッキングシステムの概要を教えていただけますか?
小嶋さん「結構シンプルですよ。
ヨットに取り付けた機器から衛星通信を利用してGPSの位置情報を自動的に発信しています。この情報をFURUNO側で受けて、これも自動的にウェブサイトのマップ上に展開されています。
GPSの位置情報を活用すれば位置だけでなく、速度や向きも計算ができますから、そういった情報をまとめてウェブサイトに掲載しています。」
-辛坊さん、堀江さんの挑戦のために作られたシステムなんでしょうか?
小嶋さん「トラッキングシステム自体は以前FURUNOに在籍していた森 正幸さん(現 協立電波サービス)がモジュールなどを購入し、自作されたものなんです。そして小笠原ヨットレースや日本-パラオ親善ヨットレースなどで活用され、良い評価をいただいていました。
ヨットレースの際は陸側のシステムは他社さんのシステムだったんですが、辛坊さんのヨットでの太平洋横断のお話をいただき、陸側のシステムをデジ部で作ってみようと。
森さんの作られた機器に、私たちが作ったシステムを合わせ完成したものが辛坊さん、堀江さんのトラッキングシステムですね。」
機器自体は手作り。それで60日以上の航海、しかも太平洋のど真ん中で壊れずに情報を発信しつづけていたのだから大したものだと感心しました。
太平洋横断チャレンジの舞台裏
-何かトラブルなどはなかったのでしょうか?
住田さん「ちょっと技術的なことではないので恥ずかしいのですが、辛坊さんの出港時などアクセスが集中したことで、サイトの表示に時間がかかる状態になってしまいました。その時は見てくださった方にご迷惑をおかけしたなと。
自分達の想定していた数の数倍はアクセスがあり、世間の注目度の高さを感じましたね。
以降、アクセス集中が予想されるタイミングではクラウドのリソース増強することで対応していましたが、小嶋さんや役員の方にも張り付いてもらって切り替え作業などをしたのは結構大変でしたね。」
小嶋さん「あと辛坊さんの最初のスタート直後、別の心配もありました。
辛坊さんが一度太平洋に出た後、また本州に戻ってくるルートをとっていたんですが、これは正しくトラッキングができているのか、それとも機器が流されてしまったのかどっちか分からなかったのでヤキモキしましたね。
結局は辛坊さんの連絡などから本当にヨットが波風に流されて本州の方に戻ってきていたので、トラッキングシステムが正しく動いていることが分かりました。ホッと一安心しましたね。」
-辛坊さんから堀江さんの挑戦になった際に改良したことなどはありますか?
小嶋さん「辛坊さんの途中で何度かアップデートしましたね。
最初は船速の表示を追加しましたね。その時も船速によって航跡の表示カラーを変えたりすれば見やすくていいよね、なんて話をしましたね。
それと"今、全体のどのくらい進んでいるんだろうか?"を知りたいと要望を受けたので、航海の進捗率をパーセンテージで表示する機能を追加しました。
あとは航跡の表示間隔の修正ですね。データが溜まりすぎると重たくなるので、過去のデータはプロットを間引くなど、長い航海に対応する形にアップデートしていきました。」
住田さん「あとマイル表記とkm表記ですね。私たち海の世界だと1マイルは1852mですが、陸だと1マイルは1609m。そこの違いで混乱する閲覧者さんもおられたので、km表記の併記をして、マイルではなく海里に修正しました。
普段、海の業界で働いていると何の疑問も持ちませんでしたが、一般の方が見るサイトになるとこういう点も注意が必要なんだなと感じて新鮮でしたね。」
辛坊さんの挑戦の期間にアップデートは完了し、堀江さんの時にはトラブルなくトラッキングシステムは稼働したとのこと。
辛坊さん、堀江さんのヨットの航跡はリリース後も最良を目指されたデジ部の皆さんの努力の賜物かも知れませんね。
-挑戦に関連して反響はありましたか?
住田さん「結構SNSやネット記事などは読んで状況は注視していましたね。
更新が遅いなど言われてないかなと思いましたが、好意的な反応が多くて安心しました。「海の上のことなのにこれだけリアルタイムで情報が出るのありがたい」というような投稿があって嬉しく感じましたね。」
小嶋さん「ゴールしたときは、ちょっと楽しかったですね。「FURUNOさんありがとう!」みたいなコメントがあったので、やって良かったなと。」
住田さん「あ、あと私は今年サッカーチームに入ったんですが、そこで出会った人に古野電気で働いてますと伝えたら、「あ、辛坊さんと堀江さんを応援してる会社!」と言われまして。
"あのシステム、私が作ってるんですよ!"というと一目置かれるようになりました(笑)」
インタビューを終えて
「このトラッキングシステムが多くの方に楽しんでいただけたシステムになっていたならば、私たちも嬉しいです」とお二人は満足そうに笑顔を見せていました。
そして次の展望もあるようで、辛坊さんと堀江さんの挑戦の応援を経て、デジ部では現在"イチダケ"というサービスの提供に向けて準備を進めています。
"イチダケ"のニュースリリースはこちら
そして次回はこのトラッキングシステムを開発した森 正幸さんのインタビューをお届けします。
エンジニア魂が揺さぶられる、熱いインタビューになりました。
執筆・撮影 高津 みなと