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元図書館司書が2024年の読書手帳を見返してみた。

こんばんは、古河なつみです。
最近「読書手帳」が改めて注目されていると広告で目にしました。
特に新潮社から出ている文庫本型の読書手帳が話題のようですね。

(……実は講談社からも同じような文庫型の読書手帳が出ているんです)

ふと自分の読書手帳を見返していると、特別に印象に残った本があると気づかされます。

2023年度末に面白かった本をまとめた記事を書いていたので、少し時期が過ぎてしまいましたが読書手帳の記録をもとに「2024年に出会えたベスト本」をまとめてみました。2024年に出会った本、という基準なので出版年が随分昔のものもございますが、お楽しみいただければ嬉しいです!



一生忘れられない本で賞

『ヒューマン・コメディ』サローヤン著/小川敏子訳/光文社

世界情勢が不安定になっていく2024年にこの本に出会えたことは私にとって幸運な出来事でした。

あらすじはアメリカのカルフォルニア州に暮らす新聞配達の少年ホーマー・マーコリーを中心とした人々の生活を描いた作品です。ホーマー君は家族や町の人々に見守られながら成長していくのですが、時代背景が第二次世界大戦中なので、すぐには乗り越えられない大きな悲しみにも直面します。

戦地へ行った兄からの手紙を読んだ後にホーマー君が呟く台詞は、今、戦争に巻き込まれている人々を思い起こさせます。他にも、うまく社会生活に馴染めず、強盗をしてしまった青年と銃を向けられた郵便局長のやり取りを通勤途中に読んでいたら目がうるうるしてしまって……今まで読んだ小説の中でも稀ですが、この青年と局長のエピソードは一生忘れる事はないと思います。そして巻末の解説を読んで、この『ヒューマン・コメディ』を書いた後のサローヤンの人生を知ってしまい……晩年の作品を読もうかどうか、すごく迷っています……この作者自身のエピソードも一生忘れないでしょう。


夜の読書にぴったりな本で賞

『珈琲と煙草』
フェルディナント・フォン・シーラッハ著/酒寄進一訳/東京創元社

フェルディナント・フォン・シーラッハのエッセイとスケッチのようなショートショートの物語集です。どの作品がエッセイで、どれがショートショートなのか……境界があいまいで、シーラッハならこんな出来事に遭遇していてもおかしくないかしら? でもこんな事って実際に起きるのかしら……とずっと揺れ続けているのに落ちる事のない吊り橋を著者と一緒に歩いていくような感覚がありました。文章から想像する勝手なイメージですが、シーラッハは根っからの憂鬱症気質のように思えます。けれどそういった己の在り方を客観的に描写することに長けた作家なので、鬱陶しくないのがいいところ。昼じゃなくて夜に読みたい、と感じた一冊です。


なぜか不思議と巡り会えた本で賞

『新装版ペルーからきた私の娘』藤本和子著/晶文社

読書というのは時に不思議な連鎖反応を生み出す時があります。
柴田元幸さんの『ぼくは翻訳についてこう考えています~柴田元幸の意見100~』を読んでいた時にリチャード・ブローティガンの『アメリカの鱒釣り』の翻訳が素晴らしいと村上春樹さんと話した事がある、と書かれていて興味を持ち、地元の図書館に『アメリカの鱒釣り』を借りに行きました。その時、図書館の特集コーナーに綺麗な装丁の本があったので一緒にジャケ借りしたのがこの『ペルーからきた私の娘』でした。
最初に収録されている表題作の雰囲気から短編小説集なのかと思っていると、併読していた『アメリカの鱒釣り』の著者・ブローティガンの名前がひょっこり登場し、そこでようやく柴田さんと村上さんが話していた名翻訳家・藤本和子さんのエッセイ本だと気づいて驚きました。
柴田元幸さん、村上春樹さんの文体がお好きな方には刺さる一冊だと思います。


映画みたいな本だったで賞

『子どもの瞬間』ウェイン・F.ミラー著写真/黒沢優子訳/福音館書店

カメラマンであるウェイン氏が自分の4人の子どもたちのポートレートを思春期の終わりまで撮影し続けた写真集で、素朴なスナップのようでいて芸術的な構図で映される子どもたちの成長の様子を写真と文章で感じる事ができます。子どもたちはある時は「被写体」として、ある時は「主張する者」として元気いっぱいに、時に泣いたり、様々な表情を見せてくれます。
とある家庭の子どもたちの成長録、と言ってしまうには1ページ1ページが本当に美しく、優しい眼差しに満ちた写真集でした。


2024年もたくさんの本との出会いがあったので、挙げていくとどんどん長くなってしまいそうですね。2025年のこれからもたくさんの素敵な本と出会えたら嬉しいです。

それでは、またの夜に。

古河なつみ

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古河なつみ
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