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歌集 『ナムタル』 装画

歌人で精神科医でもある、土岐友浩さんの第三歌集『ナムタル』の装画を描かせていただきました。

鉛筆画(文字も)

2023年9月、私家版として刊行。



土岐さんとのご縁は3年ほど前からになります。
こちらも歌人で医師でもある、満島せしんさんの歌集『感情という名前の、』の装画・装丁をさせてもらった際、栞文でご一緒させてもらったのが最初です。そして昨年の秋、文学フリマ大阪でわたしの 詩画集『変身物語』を土岐さんが読んでくださり、そこから装画のご依頼をいただきました。
そのご依頼いただいたメールに、2021年夏に詠んだという連作短歌「ナムタル」が添付されていて、読んですぐ引き受ける旨の返信をしました。それほどそこには自分が昔から感じていたものと近しい感覚がありました。
「世界」と「私」との齟齬・ずれ、そしてぶ厚い膜のようなもの。社会というゴム紐がちぎれて、ばらばらにただよう感覚は、疫病によって社会の凝縮された力がゆるまった時とよく似ていました。

 終電はとっくに過ぎた淀川のほとりに螺旋階段がある

 こんにちは、こん、こん、足を沈ませて踊り場のある螺旋階段    

その連作短歌から感じた、「ほどけて」解放された、不思議と心地よい不安やはかなさは、その時とても身に沁みたのを覚えています(もちろん疫病で個人や社会が大変な経験をしたということとは別次元での話です)。

 あなたから忘れてほしい虚無感と虚無を交換したあの夜の

 ジグザグの影が這いずる階段を地道にのぼる蟻もすずめも

 あとはもう死を待つだけの電柱とだいたい同じ高さに山が

歌集『ナムタル』より



土岐さんから、装画には「翼」をモチーフにしたいとのご要望がありました(いわゆる天使的なものではなく)。

ちょうどライフワークとしている素描画で、あらためて鳥に集中的に取り組もうとしていたところでした。不思議なタイミングでしたが、創作においてこうしたシンクロニシティはよく起こります。

鳥の素描画

題の『ナムタル』は、中島敦の小説に出てくる疫病の神の名とのこと。
翼と「ナムタル」、それぞれのイメージをまとめるのが難しく、悩みながら大阪市天王寺動物園に行きました。
そこで出会ったのが身長180cmある(直立時)、世界最大の鶴です。羽はなめらかな灰色。その雄大で変幻自在な翼を見つめつづけている内に、「ほどけて」ゆくことを深く理解できたように感じました。
そうしてこの美しい鶴を核として、表紙の絵を描きました。

世界最大の鶴・オオヅル



また本書は美しい本づくりにこだわった私家版歌集として、著者自身が本文組版(Adobe InDesign 使用)や、装丁(仕様や紙の選定)にもたずさわっています。
その情熱はもちろん表紙にも及んでおり、装画となる鉛筆画表現のため、関西屈指の美術印刷「株式会社サンエムカラー」様にて、表紙印刷をおこないました。本文印刷・製本は、著者と関わりの深い「創栄図書印刷株式会社」様に依頼しています。

サンエムカラー様・本機印刷立会 
(許可を得て撮影しています)
サンエムカラー様・工場内 印刷機

表紙の色校正から本機立会まで、サンエムカラー様と何度もやりとりを繰り返しました。
鉛筆画の、淡い諧調から深みのある濃い諧調までの幅広い表現が、なかなかうまくいかず苦労しました。特に、墨1色ではなくグレー色も入れた2色刷りのため、難しい印刷となりました。
印刷会社でパッケージデザインの仕事をしているおかげで、今回はその経験が生かせたように思います。かなり面倒なことをたくさん言いましたが、粘り強く対応してくださったサンエムカラー様にはたいへん感謝しています。
最後の本機印刷立会では、土岐さんもわたしも大満足の仕上がりでした。

歌集『ナムタル』、見かけましたらぜひ手に取ってみてください。



【ご案内】

土岐友浩 第三歌集『ナムタル』刊行記念
古井フラ 装画・原画(鉛筆画)展

このたび歌人の牛隆佑さんの力添えで、大阪府豊中市にある「犬と街灯」さんで、歌集『ナムタル』装画・鉛筆画展をさせていただくことになりました。他の候補となった絵も含めた原画と、印刷にこだわった過程の色校正なども展示します。

「歌人」と、「画家」と、「印刷会社」による、物づくり・本づくりの情熱を、本展の原画と校正を通して感じていただければ幸いです。
私家版本の聖地となりつつある「犬と街灯」さんでの展示です。この機会にぜひお立ち寄りください。

犬と街灯

場所: 犬と街灯  大阪府豊中市庄内西町3丁目10-27

会期(5日間)
2023年11月 - 18日(土) 19日(日) 24日(金) 25日(土) 26日(日)
< OPEN 12~19時 >

フライヤー 表
フライヤー 裏


歌人/精神科医 土岐友浩


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