カスのスイミー事件


来てください
ちょっとうつむいたエッセイ

カスのスイミー事件

大学2年生の夏、23時ごろに帰宅することがあった。

当時は大人のための自習室のような場所でアルバイトをしており、夜番を担当することが多かったため、帰りが遅くなることも多かった。

その日は突然のゲリラ豪雨に見舞われた。しかし、家までは自転車で10分くらいだったから、突っ切ってしまおう、と駐輪場を目指した。

豪雨の中、突然声をかけられた。

「僕が傘になろう」

50代くらいの男性が、ワイシャツにスラックスという姿で立っていた。しかし、傘は持っておらず、黒いビジネスかばんを頭の上にのせて、びしょびしょのまま声をかけてきたのだ。

いや、傘持ってないし、自分もびしょびしょじゃねえか。

僕が傘に「なろう」というのも変な話で、傘を持っていたら入れてくれたらそれは私にとって少なからずメリットなのだが、傘を持っていないし、自分自身が傘になることができるのか? すでに自分自身びしょびしょなのに?

これが私が人生で最初で最後にナンパされた日である。「カスのスイミー事件」と呼んでいる。


下着事件

去年、ファゴットとピアノの演奏会に行ったことがあった。内容はほとんど現代音楽を中心としたプログラムで、非常に刺激的な演奏会だった。

ただ、別の角度から刺激的だったことがある。

場所は両国。およそ演奏会で使うとは思えない小さな会場。キャパシティは30人くらい。ファゴットが見えやすい、右側の前の方の席を選んで座る。

私からは離れた左側のブロックの席に男性が座っていたのだが、その男性は明らかに下半身がパンツだけなのである。ボクサーパンツというか、とにかく肌色の面積が多い。しかも、上半身は普通のTシャツで、膝にはビジネスかばんを抱えている。

不審に思い、開催側に「男性で下半身下着だけの人がいるかなって思うんですけど……」と伝えると、「ショートパンツかと思いますよ~」と言われた。いや、そんなわけないんだってば! そんなわけがなくないですか?

不安と少しの怒りの気持ちを抱えたまま、開演を待つ。だんだん、席も混雑してきて、座れる席が限られてきた。隣に男性が座ってきたが、その男性のグレーのTシャツには、「下着」と明朝体で、縦に、薄い文字で大きくプリントされていた。そうだよ、だから下着なんだってば! お前はなんなんだよ!

両国という土地と、現代音楽という2つの地場が作用して、このような状況が発生したのだろうか。他の観客の方はそれを何ともせず過ごしていたので、常連の方なのか、私にしか見えていなかった両国の妖精なのだろうか。

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