「Funwow.art」ギャラリーツアーレポート①
2024年8月22日(木)18時より、アートコミュニティ「Funwow.art」発足後初となるギャラリーのガイドツアーを実施しました。
「Funwow.art」は、会費がそのまま作品購入に使え、買えば買うほどポイントが貯まる、鑑賞と購入の橋渡しとなる現代アートのコミュニティサービスです。
気軽にギャラリーに訪れ、作品に深く触れられるように、ギャラリーツアーやアーティストトークなどの交流の機会を提供しています。
今回は参加ギャラリーのMaki Fine ArtsがCADAN有楽町*にて開催する、豊嶋康子 | 佐藤克久 | 末永史尚 | 益永梢子「Abstractions – ある地点より - 」と
長田奈緒「Surface/」の2つの展示のガイドツアーを実施いたしました。
*CADAN有楽町:一般社団法人日本現代美術商協会(CADAN)が運営するギャラリースペース。CADANのメンバーギャラリーが交代で展覧会を企画・開催する。
CADAN有楽町に集まった参加者は、まず自由に作品を鑑賞。その後、展示を主催するMaki Fine Artsギャラリスト・牧高啓さんと、「Funwow.art」のコミュニティサポーターであり、東京都現代美術館でボランティアガイドを務めたあづまっくすさんによる解説タイムがスタート!
当日のガイド
以下では当日の解説の一部をご紹介します。
作家の紹介
1. 豊嶋康子 | Yasuko TOYOSHIMA
木のパネルに風車のようなパーツが付いたシリーズ作品。壁には19点の作品がずらりと並び、「地動説」というタイトルが付けられています。
牧「一般的にアート作品は固定されていることが多いですが、こちらは中心点を軸に回転する、かたちの決まっていない作品です。
作品には2020年に起きた台風の名前がサブタイトルとして付いており、各作品の色や形など、台風が発生した地域に由来した個性が付けられています。
実は、元々の着想は草刈機。作家の豊嶋さんが夏に草刈りをしたことをきっかけに生まれた作品なのだそうです」
あづまっくす「東京都現代美術館で行った個展では、草刈機と一緒に本作を展示していましたね。草をなぎ倒していく草刈機と、あらゆるものを風でなぎ倒していく台風、どこか共通点があるなと思います」
牧「使用されている色は自然塗料で、優しい色合いが特徴的です。また、購入者は作品の形を自由に変えられるという面白い仕掛けもあります」
2. 益永梢子 | Shoko MASUNAGA
よくある四角のキャンバスではなく、3つのピースが組み合わさってできている作品。今回は「session」シリーズから4つの作品が展示されました。
牧「こちらは『変形キャンバス』という特殊な手法を用いており、通常の四角いキャンバスではなく、様々な形状にカットされたピースが重なり合って構成されています。
よく見ると、形の反転や移動など、パズルのような要素があることがわかります。隣り合う部分との関係性が非常に重要な作品なのです。
益永さんの独特な作風には、服飾のパターンデザイナーであるお母様の影響があります。幼少期に家にあった布切れやパターンの布でパズルのように遊んでいたそうです。その幼少期の感覚が、そのまま大人になって作品に反映されている純粋な作品です。
色使いも益永さん独特のもので、とても特徴的です」
末永史尚 | Fuminao SUENAGA
「Search Results」は、美術史の巨匠の名前で画像検索を行い、その結果画面に表示された作品画像を描いたシリーズ。本来の作品サイズはさまざまですが、本作品では結果画面そのままの比率で描かれています。
牧「末永さんも東京都現代美術館にコレクションされている作家さんです。
インターネットの検索結果の表示順は、ユーザーによって異なります。つまり本作品の掲載順は、作家の末永さんの検索アルゴリズムが反映されたもの。ある意味プラベートな作品とも言えます。このシリーズは2013年から始まって、累計で60点ほど制作されています。ピカソやロスコ、北斎など様々な巨匠をモチーフにしていて、非常に人気のあるシリーズなんです」
あづまっくす「ピクセルでできたデジタルの画面を、アナログの筆で描く。そのこだわりがキャンバスの側面に垂れた絵の具に表れていますよね。題材はデジタルだけど、アナログを感じさせるエッセンスが残っているところがコンセプチュアルだなと思います」
牧「末永さんはデジタル画面を描いていますが、自身はペインターだという意識が強くある方です。そんなこだわりが側面の絵の具から感じられる面白さもありますね」
佐藤克久 | Katsuhisa SATO
クマの顔がトランプのようにデザインされた作品。全部で6点からなる作品で、それぞれを組み合わせるとクマの顔がつながります。
牧「作家の佐藤さんは、今回Maki Fine Artsで初めて展示するのですが、年代的には末永さんと同世代のキャリアのある作家さんです。佐藤さんの作品はパラドックス的な要素を強く含んでいて、天地を決めずに本作品を描いています。完成後も上下をひっくり返せるようになっていて、6点の並び順も自由。そんな連続性のある作品です。
なお、過去に犬で制作したものの、なかなか犬と認識してもらえなかったことから、よりわかりやすい動物として今回はクマが選ばれたそうです(笑)」
長田奈緒 | Nao Osada
長田奈緒さんの作品は、日常生活で見慣れたものを題材に、シルクスクリーンという技法を用いて異なる素材に転写する独特のアプローチが特徴です。今回の展示では額装していますが、普段は床に散りばめるなども多いそうです。
牧「例えば、ストローの包装紙をモチーフにしている作品では、一枚のガラス板に、包装紙の輪郭部分だけをガラスエッチング技法で半透明に加工し、その上からシルクスクリーンで色を精密に刷り重ねています。近くで見ると、その繊細な技術に驚かされます。
他にも、お菓子の包装紙やキャンディーの包み、さらには乾燥剤のシリカゲルまでもが作品の題材となっています。
長田さんの作品は、見慣れたものを異なる文脈に置くことで、私たちの日常的な知覚に小さな違和感を与えます。それが鑑賞者の気づきを促し、日常を新たな視点で見直すきっかけになるのです」
参加者の声
「作品や作家さんの背景が聞けるのが面白かった」
牧さんによる作品解説後は、各々が気になった作品を眺めたり、牧さんに個別で質問をしたり。解説で作品への理解を深めた後に再び作品をじっくり見て、さらに気になったことを質問できるのがガイドツアーの醍醐味です。
今回のガイドツアーには、もともと現代アートが好きな人から、なんとなく興味があるけど詳しくは知らないという人まで、12名の方が参加。
参加者からは以下感想が寄せられました。
アート作品を眺めながら、制作の意図や作家さんの背景などを聞けるのは、純粋に面白いだけでなく、「なんとなく感じる」だけだった作品の解像度が上がり、より鮮明になっていく感覚があります。
ツアー終了後は会員限定の交流会も開催されました。
牧さんやあづまっくすさんを囲み、「今までで一番インパクトを受けた作品は?」「金額は度外視して一つだけ好きな作品を手に入れられるとしたら?」「どのギャラリーが好き?」など、アートコミュニティサービスらしい会話が弾みました。
参加者からは、ギャラリスト等業界の人たちとこんなに近い距離で話せたのは初めてで嬉しかったというお声も頂戴しました。
次回ツアーとご登録のご案内
「Funwow.art」は厳選されたギャラリーのガイドツアーを随時開催します。次回は9/14に清澄白河にて開催予定です。ぜひ会員登録の上、お気軽にご参加ください。
Text by Natsumi Amano