【聖なる犯罪者】天使で悪魔な青年は眼が怖い。
普段私たちが生活する中で、当たり前で仕方ない事だと麻痺してしまっている残酷な現実があちこち転がっています。日々過ごすうえで気が付いているけれど見えないふりをしているわけです。
にもかかわらず頭をガシッと掴まれて、そんな現実を無理矢理見せられている。そんな映画でした。
すべての出来事はトゥーフェイス
争うのにだってお互いにとっての正義があって、それぞれから見ると正しいと言える主張が存在するのはある種当たり前の事です。そんな当たり前の事にもかかわらず、つい人間はその事を都合よく忘れてしまうのです。
この作品でもある出来事に関する二面性について多く描写があります。
そもそも主人公は仮釈放の身で聖人だったり、村人から見ると仕方ないと思える事も被害者の妻からするとただの嫌がらせだったり、被害者達に非があると思ったら加害者側にも故意なのではと思わせる節があったり。
映画【スクラップヘブン】でも「もっとみんなに想像力があれば」と言われていますが、のほほんと生きているとどうしても人間は視野が狭くなりがちです。自分の立場から見える景色しか頭にないし、自分の真逆の立場から見える景色なんて存在しないくらいにさえ考えてしまうのでしょう。
これが小さく単純な出来事でも起きているのですから、もっと複雑な出来事であったり、なんなら人間そのものに関して考える時は尚更です。【恋愛睡眠のススメ】のステファンに言わせるところの「鼻の後ろにある宇宙で最も複雑な物」を理解するにはニ面どころでなく、もっと多面的に考えないといけません。
殺人事件についての報道を見ると「そんな事する人に見えなかった」なんて言葉をよく耳にします。おそらくこれも同じ様な現象なのでしょう。一見普通の人でも別の角度から見ると暴力的だったり残忍な部分を持ち合わせているものです。ちょうどこの作品の主人公もそうであったように…。
人間の多面性というものは決して物語の登場人物や、大きな犯罪を起こす危険人物だけのものではありません。
私自身見る人によって、反社みたいなヤバイ人・外面のいい爽やかな人・めっちゃ細かい嫌な人・人たらしな良い弟分などなど色んな面があると思います。どれかひとつが私なのではなく、すべての要素があわさって一人の人間を作っているのです。
だからこそ、そんな色んな面を知って&受け入れて 初めてその人をきちんと理解していると言えます。
そう考えると自分の事を理解してくれる人は近くにいるでしょうか?自分が理解していると言える人は周りにいるでしょうか?
ストレート まっすぐだね 君はまるでレーザービーム
私自身、年齢が立場が性別がどうであれ遠慮せずに物を言ったり、理不尽だと思えば噛み付いたりするような人間です。キャンキャン吠えているとなだめられる事が多いのですが、その度に妙に納得いきません。根っこの部分が頑固でワガママなのは承知ですが、忖度しなきゃとかみんなと合わせなくちゃとかナンセンスだし、自分で考えて正しいと思った通りに動きたいのです。
ただ、周りを見ると案外 事なかれ主義的に理不尽な事を受け入れてしまう人が多い事に驚かされます。
そんなの嫌じゃないのかな?と思いますが、もちろん彼らも嫌々ながら受け入れているだけのようです。そんな人のおかげで私のワガママが通っている部分もあるのでしょうが、あまり理解できないのが正直なところです。なぜ嫌なのに受け入れてしまうのでしょう?
出る杭は打たれるから周りの空気を読もう、やぶをつつくと蛇が出るから見て見ぬふりをしようというのは島国日本人の国民性なのかと思っていました。ですが、この作品を観ると世界共通で人間の性質として持っている物なのかもしれないと気が付かされました。
村でタブーとされている部分に切り込んだり、一部の人の思惑を暴こうとするあたりの主人公の行動は魅力を感じますし、なんなら英雄的にも思えます。
それはこの世間一般の人たちと異なる性質だからという一点に理由づけられるのではないでしょうか。
多くの人が持っている性質と異なるからこそ観客は自分と主人公の間に一定の距離を置けるので、主人公が異様な人間として映り、そこに魅力や違和感を感じるように作られているのだと思います。
序盤は人を欺く噓つきな面を見せ、中盤は誠実な面を、ラストでは再び犯罪者としての残虐な面を見せる。一人の人間の多面性を鮮やかに写したこの作品は、多くの人は他人事として楽しめるかもしれませんが、私は自分の事を言われているようで思わずドキドキしてしまいました。
見て見ぬふりをしている所に改めて気付かされるのが辛いという意味でも、もしかしたらもう一度観る事はないかもしれません。
ただ、この作品のラストを観て主人公の事を「なんだ、やっぱこいつは悪い奴じゃないか」なんて思ったのなら、この作品をきちんと理解していないかもしれません。他人事ではなく自分事として捉えるのがポイントだと思いますよ。
☆3.4/5.0と当たり障りのないの評価にはなりますが、どろっとしたお汁粉に白玉をくぐらせて真っ白な白玉が赤黒く濁る所をみながら食べるのなんかどうでしょう?
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