2021年に読んだ、後生動物の初期進化における幼生化現象(larvalization)の仮説の文献について
動物の発生様式の起源や最初の動物の幼生形態といった、仮説にとどまるテーマについては個人的な興味があるといえばあるので、近年見つけた情報で気になったものを適当に書いておきたい。身勝手な読書記録という形である。
2019年に、Russian Journal of Developmental Biology誌では、ロシアのモスクワ州立大学無脊椎動物学研究室の研究者らが、動物の起源と進化における仮説を発表した。この仮説では、膨大な過去の文献を渉猟し、動物の起源、初期の動物の個体発生、および、幼生における繊毛について、考えを披露している。
動物の起源としては、synzoosporeという複数の立襟鞭毛虫のような細胞集団を考え、これが増殖して子孫を放出して、それがまた成長する生活環が発展したものが、海綿であり、海綿の体内から幼生が放出され、その幼生が成長して海綿になる生活環を提案している。ここでの幼生はsynzoosporeがより巨大化したものであるが、実質的には漂う胚のようなものである。
最初の後生動物は、この幼生の形を保ったまま遊泳生活を営んで生存するようになった。この段階から左右相称の後生動物と有櫛動物への分岐が生じた。後者については、最初の後生動物から底生生活へと入らず浮遊したままの生活を営んだグループとしえた。前者では、さらに、刺胞動物と三胚葉性の後生動物に分岐した。前者は、底生生活後、新たな放射相称の形を持つようになり、後者は、水中への生活には移行せず、底面を進む左右相称の形を持つようになった。
刺胞動物の中で、刺胞動物門花虫綱ハナギンチャク目では、最初は数多くの触手を持った底生の稚体の姿であるが、この次に遊泳幼生になる。これは底生から水中という異なる環境への適応であり、この適応が、最初の後生動物の段階で起こったと研究チームは考え、larvalization【幼生化現象】と命名している。
この幼生化現象で定着した形態が、左右相称の遊泳する幼生形態になる。トロコフォア幼生やトルナリア幼生は幅広い動物門で見られるが、これらの幼生には繊毛帯がある点が共通している。機能の分化や食餌の過程に違いはあるが、この存在は幼生形態が幼生化現象に基づく単一の起源であることを示している。
真の幼生としてウィリアムソン博士やバルフォアが認識したプラヌラ幼生については、ヒドロ虫綱で口器を欠いた非摂食な原腸胚と考えるべき、としており、幼生としての見方はしていない。
実際の文献では、動物の起源についての仮説や個体発生での幼生の出現時期や繊毛帯の食餌機能などについて詳細に検討しているが、ここでは幼生の出現のみに着目し、文章化は省いている。
後生動物の起源については、前世紀の書籍になるが、以下が参考になると思う。
こちらはやや新しい。20年くらい前の本だが、動物の起源や初期進化や発生様式など、前世紀までの知見を網羅している。
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