第13章:種々の幼生、触手冠に関して
<種々の幼生ならびに触手冠の起源>
2013年のCell & Developmental Biology誌の第2巻4号に、博士が新たに論文を寄稿した。表題はLarvae, Lophophores and Chimeras in Classificationである。ここでは、今までの紹介で取り上げた知見は省き、種々の幼生であまり触れられていなかった事柄や触手冠動物の起源について触れたい。
① 種々の幼生
タコやイカなど頭足類は一般的に幼生を持たないとされているが、部分的に成体よりも形態が単純化され、食性の異なる段階はパラ幼生(paralarvae)と呼ばれる。以下の一種トックリイカGrimalditeuthis bonplandiのパラ幼生は草食であり、尾にある二対の鰭(bilobed tail fin)が成体と違ってないのである。また、パラ幼生の一例としては、頭索動物のナメクジウオが該当する。ヒガシナメクジウオBrenchiostomaは左側に口を、右側に鰓を持つ形態に生まれるが、成長するにつれ、左右相称になっていく。いずれも、一種類の動物のゲノム内の働きで成り立つのがパラ幼生であり、雑種形成に伴うものではない。
前形態(protomorph)は、孵化した形態が持つ(全身ではなく)特定の形質が“幼生”になっている状態をいう。例えば、甲殻類鰓脚綱のLeptestheria syriacaは、ノープリウスに見えるが、体の前半のみがそうであり、脱皮を繰り返して体節を増やしていくのである。このことは他の鰓脚綱にもいえる。
完全な幼生はフジツボのノープリウス幼生が一例になる。これは、ノープリウス様の甲殻類と堅い殻を持つ底生の非節足動物との雑種形成によるものと考えられる。現存のLepasと類似したフジツボの化石種Priscansermarinus barnettiは、小頭(capitulum)の内部に甲殻類の痕跡がなければ、雑種形成に参画したフジツボになるのではなか、と博士は考えている。
② 触手冠の起源
触手冠動物については、食餌器官である総担(ふさかつぎ)を第9章で挙げ、触手冠動物では、一部の外肛動物苔虫類、全ての箒虫動物で見られるが、これに属さないとされる半索動物の翼鰓類でも見られるが、触手冠動物に属する大部分の外肛動物と腕足動物には見られないことを述べている。さらに、外肛動物苔虫類は、被口綱・狭喉綱・裸喉綱の3種類に分かれるが、総担を有するのは淡水性の被口綱のみであり、海水性の狭喉綱と裸喉綱はこれを持っていないことも述べている。リボソームRNAのLSUおよびSSU配列から単系統ではないことが示唆されることからも、別系統の混交によるキメラを考えるほうがよさそうだ。本論文では、変態過程に幼生細胞が幹細胞に戻ってから稚体・成体の細胞を作る出直しの変態(start-again metamorphosis)を行うこと、また、同じ触手冠動物でくくられる動物間でも、幼生の種類が異なることが指摘されている。
例えば、ハネコケムシ亜綱や狭喉綱では短命の幼生を持つか全く幼生を持たないのだが、大部分の裸喉類ではキノフォーテスかトロコフォア(他の動物門に比べて叩き潰されたような外見だが)を経て、出直し変態によって、成体の体の土台になるカプセルを作るのである。
リン・マーギュリス博士は、生前、棘胞動物が持つ棘胞をまだ得ていない腔腸動物の触手である、と触手冠を考察していた。その真偽は何とも言えないが、動物間で広く普及している触手冠は触手冠動物において初期の雑種交配で得た形質であり、キノフォーテスやトロコフォアといった幼生形態は、これよりも後の時代に、一部の科の間での雑種交配で得たのではないか、と博士は考えている。
使用文献
Larvae, Lophophores and Chimeras in Classification Donald I Williamson著
Cell & Developmental Biology 2013年 (http://dx.doi.org/10.4172/2168-9296.1000128)