飲食店で失敗しない職場の選び方について(経営編)【その17】昇格、教育プログラム
昇格、教育プログラム
前章のなかで必ず作る必要があると述べた昇格、教育プログラムについて説明します。
店長が複数人いるということは、各々の店長が新人を教育し、各々の判断で昇格が決まるということです。例えば別の店にヘルプにいったときに、教わったやり方が違うことになり当惑することになります。また昇格の基準がないと、店長の評価が厳しいタイプと緩いタイプで昇格が異なり、時給の低い方が実際に優秀ということも出てきます。これらは不協和音となります。当惑や不協和音はモチベーションの低下、離職の増加、売り上げの低下を招きます。飲食店経営で怖いのは、最初はまとまっていても不協和音が始まるとお店が崩壊することがあることです。
昇格、教育プログラムがあれば、この問題を未然に防ぐことができますので必ず作る必要があるのです。
昇格プログラムは、時給や給料が上がるプログラムのことです。教育プログラムは、初心者を念頭に、どのような業務ができたかチェックしていき上達度を可視化するためのプログラムです。
作成するにあたって
昇格、教育プログラムを作成するにあたっては、まず、店舗が何を目指しているのか正確に把握する必要があります。
ホールがいるフルサービスの店か、お客様が購入した商品をテーブルに運ぶセルフサービスの店か。キッチンレイアウトは、クローズキッチン型か、オープンキッチン型かで、昼強い店か夜強い店か、回転をあげる店か客単価を上げる店か性格が異なります。具体例の表を作成しました。
キッチンは、原材料から料理する場合と、本部用意のセントラルキッチン経由で調理する場合で異なります(→下調べ編【その4】手作り店か効率店か)。両者の中間もあります。ラーメン屋さんなら、麺とつゆはセントラルキッチンから届くが、チャーハンは各店舗で作るなどです。原材料から作れば美味しいですが、常に美味しく作れる調理人が一定数必要で人件費がかかります。セントラルキッチンは合理的ですが、つくったものを冷凍させることが多いので、美味しく提供する工夫が必要になります。また人件費も人材も抑えられそうですが、飽きられるとスタッフから辞められてしまいます。
オープンキッチンの特徴は、ライブ感です(→下調べ編【その2】オープン・クローズキッチン)。料理中の雰囲気がお客様に伝わります。また調理人が客室の状態を感じられます。ホールは接客だけでなく洗い物、調理補助をすることも多いです。オープンキッチンはスタッフ全員の仲がよいかどうかが肝になります。
クローズキッチンの特徴は、フルサービスとセルフサービスで別れます。フルサービスの場合は、お客様の対応はホールの動きが全てになります。調理人は調理に集中します。フルサービスではホールとキッチンの役割が特化します。セルフサービスでは調理スピードがことさらに重視されます。
フルサービスは、ドリンク注文、追加注文、後会計ができるので客単価が高めになります。セルフサービスは前会計なので客単価はフルサービスには劣りますが、売上数で補います。セルフサービスはテイクアウト やデリバリーとも相性がよいです(→業務編【その4】テイクアウト、デリバリーにも愛情を)。フルサービスはじっくり客単価をあげる、セルフサービスは手数で売上数をあげるです。
ざっくりですが、お客様は昼はあまりお金をかけず、夜はお金を使います。したがって、昼はセルフサービス、夜はフルサービスの相性がよいです。したがってセルフサービスは夜どうやって集客するか、フルサービスはお昼どうするかが売上をあげる課題になります。フルサービスではランチを安く提供することが常のようにも思われますが、不得手な時間帯はやらないというのも立派な選択肢です。
商品が安いほどお客様一人当たりの売上数をあげる。高いほどじっくり対応する、この最終的な客数と客単価の掛け算が売上です。売上が高くなるように取り計らうのにおいて、対応数が要求されるなら、手が遅いのはマイナスです。じっくり対応することが要求されるなら、お客様のニーズを汲み取れないのはマイナスです。
以上、店舗が目指すところをはっきりとさせて、初心者にどのようになってもらいたいかの道標を描きます。
そのほか
初心者は白紙の状態から仕事を覚えます。
キッチンとホールの仕事が完全に別れているタイプの店は、それぞれがプロフェッショナル化するゆえに、お互いの理解がないと人間関係がギクシャクする場合があります。店舗のギクシャクは全て売上に跳ね返ってきます。接客するエネルギーが削がれるからです。
そこで、キッチンとホールが完全に別れているタイプの店の場合、修行の一環としてキッチン志望でもホールからスタートさせることも有意義だと思います。ホールの気持ちがわかっていると、忙しいときにお皿を下げるのを手伝ってくれます。
セルフサービスの場合でも、キッチンパートと接客パートの区分があります。全部できて昇格する方式がよいか、キッチンパート、接客パート、別々に昇格する方式がよいかは、お店によります(→面接編【その5】昇格がどのようにされているか)。
別々に昇格できるようにすると、多様な時間帯の多様なライフスタイルのスタッフにきめ細かく対応できます。
<接客、キッチンそれぞれ50円ずつ昇格する例>
K3S3からはじまる。キッチンが先に昇格したとするとステータスはK2S3となる。スタッフ人数が多く分業が多い店舗では縦に昇格し、スタッフが少ない店舗は横に昇格する。しかし昇格の基準はひとつ(単一)。
どのスタイルの飲食店でも共通することがあります。それは飲食店はチームワークが命であるということです。お客様の満足というゴールに向けて力を合わせます。(→業務編【その6】接客の心得「キッチンとの協調性」)
昇格があれば降格があります。
降格理由は一言でいえばチームワークを乱すことです。自分勝手なセクショナリズム、モラルを欠いたスタッフの存在(→採用編【その8】仲間が変わる)、頻繁な遅刻があげられます(→採用編【その1】初出社心得!「遅刻しない」 )。これらはお店を守るためにも厳しく取締る必要があります。
昇格、降格、共通の基準があるだけでもよいですが、それら実際の選考を各店の店長が集まる店長会の場で決めるようにすると、よりフラットに公平に決められるようになります。(→経営編【その6】人件費について「店長と一緒に問題を解決するスタイル」)