Casper

『FUN FAN FUN』は日常に隠れたファンタジーを題材に、イラスト・小説・紙雑貨などを製作、販売しています。 アートを誰もが身近に、カジュアルに楽しむ提案を企画中。。

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最近の記事

ロニー 前日譚

「猫を探して欲しい」 そう静かに話す目の前の男は、落ち着かなそうに手を組んだり解いたりを繰り返している。 セミロングの金髪は癖毛なのか、少しウェーブがかかっていて、男が動く度に優雅に動く。 だが、肝心の本人の挙動のせいで気品は微塵も感じられない。 甘い顔立ちは、半世紀前の映画で見た俳優の全盛期によく似ていて美しいが、ブルージーンズとグレーのフード付きパーカーのファストファッションという出立ちで、貧相な庶民になってしまっている。 おまけに駄目押しの丸眼鏡でオタク感に拍

    • わたしが十字架を描く理由

      キリスト教と十字架の意外な歴史 十字架をキリスト教とセットに考えること、この地球上では、大変多いことでしょう。 私も意味を調べる前はそうでした。 何というか、神聖でキリストと一緒に描かれることが多いから〜っていう先入観がありました。 それもそのはずで、十字架とキリスト教が一緒になって普及し始めたのには、実は歴史的な変化の流れがあるんです。 それは、 ローマ帝国がキリスト教を国教として認めた4世紀以降にまで遡ります。 びっくりすると思いますが、それまでの初期キリスト教で

      • 尖っていけとある人は言うけれど、私は、ただただ、丸くなっていきたい。 崖から転げ落ちながら、川のせせらぎを夢みて。 川の水に磨かれて、いつか形がなくなって、果てしない時間の果てに、透明になれたらいい。

        • 昼下がりのコーヒーフロート

          上にのっている真っ白なソフトクリームは、気づかないうちに、あれま、最初の頃の形を留めていなかった。 天井に向かってシャンと立っていたのに、今ではどうだ。 輪郭はぼんやりとだらしない。 溶けたそれらは下に広がるアイスコーヒーへと、ただただ流れているではないか。 細くて白い糸のような模様はゆっくりと広がった後、なんとも言えない奇妙な色を、グラスの中に作りだした。

        • ロニー 前日譚

        • わたしが十字架を描く理由

        • 尖っていけとある人は言うけれど、私は、ただただ、丸くなっていきたい。 崖から転げ落ちながら、川のせせらぎを夢みて。 川の水に磨かれて、いつか形がなくなって、果てしない時間の果てに、透明になれたらいい。

        • 昼下がりのコーヒーフロート

          Morning View

           誰かがドアを開けた。その音が、ぼんやりと広がる意識の片隅で響いた。頭の中にかかる白いもやは濃く重く、覚醒しようとしている意識を拒んでいるように思える。 「あれ。聖人のやつ、まだ起きないの」  と、少し気怠そうな若い男性の声が聞こえてきた。おそらく部屋のドアを開けたのも彼だろう。 「ああ。一週間前にバックアップデータの転送がようやく完了したからな。記憶の構築と定着化で時間がかかってる」  すぐ隣から、また別の男性の声が聞こえる。 「あとどれくらいかかる?」 「何も問題が無けれ

          Morning View

          おすそわけ

           ふと、時に思うことがある。  何もかもを忘れて、違う誰かになってみたいと。例えばそうだな、投資家とか。別段、今の仕事に文句があるわけではない。だが俺の場合、普段から家に引きこもりがちで、いまひとつ、実感の欠けた生活を送っている気がするのだ。人間と機械が蠢くこの雑多な街で、誰かに存在を悟られないよう、息を潜めて暮らしている。  しかしそんな他愛ない空想も束の間で、俺の性格上、面倒くさいことは極力避けたい気持ちでいっぱいになった。ディスプレイの前で毎日、数字と睨めっこしているの

          おすそわけ

          Hum

           久しぶりにレターボックスの中を整理していると、三年前、突然の遠距離恋愛を切り出され、路線変更することになった彼氏からの手紙が出てきた。消印を確認すると、今日からちょうど、一週間前に届いたようだった。とても丁寧な字で自分の名前が書かれてあることに、私は小さく笑った。そして少し安心した。あの金髪不良少年だった彼が、ボールペン片手に手紙を書いている姿を想像してみると、なんだか可笑しくて仕方がなかった。スマートフォンという文明の利器を使えば片手間で済むのに、どうして彼は、わざわざ手