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「里見八犬伝」における「犬」との関係について


犬の絵でいっぱいの「里見八犬伝」の表紙(出典:「国立国会図書館デジタルコレクション」)

「里見八犬伝」における「犬」との関係は、物語全体を通じて非常に深く、象徴的で多層的な意味を持っています。物語の構成、テーマ、そしてキャラクターの設定において、「犬」の存在がどのように重要な役割を果たしているかを以下で説明していきます。

1. 伏姫と八房の物語

「里見八犬伝」の発端となるのが、里見家の姫・伏姫と、犬の八房との物語です。この部分は物語全体の象徴的な根幹であり、八犬士が誕生する大きな要因となります。具体的には、以下のエピソードが重要です。

  • 八房の登場: 里見家の武将、里見義実は戦に勝利した際、家臣から「忠義の犬」として献上された犬・八房を大いに可愛がります。しかし、ある日、義実が誤解から八房に殺すよう命じられたため、八房は逃げ延び、後に伏姫を連れ去ります。伏姫は義実の娘で、気高く、美しい女性です。

  • 伏姫と八房の絆: 伏姫は八房に対して恐怖や怒りを抱くことなく、その忠実さを理解し、命を助けます。その後、二人(伏姫と八房)は共に山に籠り、神聖な生活を送ります。伏姫は八房を深く信頼し、敬意を持ちながら過ごしました。ここで注目すべきは、二人の関係が肉体的な結びつきというよりも精神的な絆を強調して描かれている点です。伏姫は「徳」の象徴であり、八房もその忠誠と信義を象徴する存在として描かれています。

  • 伏姫の死と誓約: 伏姫は、義実が自分を迎えに来た際、自らの潔白を証明するために自害を選びます。しかし、彼女は死の直前に、八房との間に生まれた「八つの魂」を宿す玉を遺します。この「八つの魂」が八犬士の誕生に繋がります。このエピソードでは、伏姫と八房の精神的な結びつきが、八犬士の運命を決定づける重要な出来事として描かれています。

2. 八犬士の誕生と「仁義八行」

八犬士は、伏姫が残した「八つの魂」から生まれた存在であり、それぞれが特定の徳目を体現しています。この徳目は「仁義礼智忠信孝悌」という、儒教的な倫理観に基づくもので、これが物語の根幹をなすテーマにもなっています。各犬士は、名前に「犬」の字を持ち、その徳を象徴する玉(牡丹型の宝玉)を持って生まれています。これらの徳目は、物語を通じて八犬士がどのように行動し、決断していくかを左右します。

例えば:

  • **犬塚信乃(いぬづかしの)**は「信」を象徴し、誠実で正直な性格を持つ。

  • **犬川荘助(いぬかわそうすけ)**は「孝」を象徴し、親への忠義を貫く。

これらの犬士はそれぞれ異なる場所で生まれ、異なる運命を歩みながらも、次第に集まり、里見家に忠誠を尽くして悪を討つために団結します。ここでも「犬」という存在が忠誠や結束の象徴として用いられており、各犬士は伏姫と八房から受け継いだ魂によって結ばれているのです。

3. 犬の象徴的な意味と八犬士の役割

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