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トルチェッロ島の8月15日
8月15日、日本では終戦記念日のこの日、イタリアは「聖母被昇天の日」で祝日となる。聖母マリアが亡くなって、天に召された日というキリスト教の祝日だが、イタリアでは一般に「フェッラゴスト(Ferragosto)」と呼ばれる。それはキリスト教以前の、初代皇帝アウグストゥスの祝日という意味からきているらしいのだが、鉄を表すフェッロ(ferro)という音に近いせいか、長いこと、鉄のように暑いから「鉄の8月」なのかと思っていた。
もともとこの日は、家族親戚一同集まって昼食を食べる、という伝統がある。そういえば、そんなテーマの映画もあった。
ただ、どうにもこうにもこんなに暑いと、家で料理して集まって・・・というのは、もはや想像しづらい。皆、海や山で、一同で過ごしていれば、特にこの日は、せっかくだから一緒に昼食を、となるのかもしれない。イタリア人の家族がいるわけではない私には、想像の域を出ないけれど、「フェッラゴストの昼食」という言葉をあまり聞かなくなっているように思う。
暑い暑い8月15日、今年は久しぶりに、ヴェネツィアのトルチェッロ島に行った。ヴェネツィアの本島と空港の間に位置するトルチェッロ島は、今でこそラグーナの北の果ての、小さな田舎の島といった風情だけれど、このラグーナの中で、今のヴェネツィア本島より前に町ができたところで、最も歴史が古い。
水上バスを降りて、島で唯一の鐘楼を目指して歩く。サンタ・マリア・アッスンタ大聖堂(Basilica di Santa Maria Assunta)は、その名の通り「聖母被昇天」に捧げられている。この日はミサがあって、その後、ちょっとしたコンサートがある。例年であれば、それはもちろん聖母被昇天大聖堂で行われるのが、今年はそちらの中が一部修復工事中で、お隣のサンタ・フォスカ教会で行われた。
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先に、サンタ・マリア・アッスンタにささっとお参りを。須賀敦子さんが「これだけでいい」と表現した、金色のモザイクの中に浮かぶ聖母は、相変わらず美しい佇まいで絶対的な存在感を示している。この聖母について、見るたびに須賀さんのフレーズを思い出すのだが、今回改めて、「これだけでいい」、それ以上にこの姿を表現する方法はない、と確信した。
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15年前は、この大きな大聖堂がヴェネツィアの住民や観光客でいっぱいになったコンサート、広さでいえば何分の一かしかないサンタ・フォスカで、どうなることやらと思ったが、あまり宣伝もしていなかったのか、そもそもの生活習慣の変化などもあるのか、その小ぶりの聖堂で十分なくらいだった。8名の合唱団 Ad Parnassumと、6名の合奏 Orchestra da Cmera di Veneziaによる16世紀から17世紀初めの讃美歌は、月並みな言い方だけれど、世にも美しき天使の歌声、天にも上る心地がした。
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演奏が終わって、お目当てのセルフサービスのレストランに駆けつけると、既に地元の、といってもこのトルチェッロ島にはほとんど住民はいないのだが、周囲の島々からマイ・ボートで乗りつけたらしき人々でいっぱいだった。押し合いへし合いのカウンターで、なんとか、揚げたての魚介のフリット(フライ)と、キリリと冷えたプロセッコをゲットして、大勢のテーブルの合間の小さなテーブルにするりと滑り込んだ。
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空腹を満たして周りを見ながら、こんな日に、ひとりでここで食事をしているのなんて、私だけ、と気がついた。と、同時に、そういえばやはり10年以上前の同じ日、日本から来ていた両親にヴェネツィアの8月15日を味わってもらおうと思い、ヴェネツィアの他の島でランチを食べたあと、このトルチェッロのコンサートに案内しようと計画していたことを思い出した。あの時はコンサートが午後だったのだろう。だが、ヴェネツィアの島同士の移動には、案外時間がかかる。昼食に出かけた食堂も、こんな日は大混雑でおいしく食べ終わった頃には、すっかりコンサートには間に合わない時間になっていた。
当時は、8月15日は、トルチェッロ島が一年で唯一賑わう日だった。今は、夏の間はこうして、近隣からのボート客で賑わうほか、一年中、観光客の足も途絶えなくなった。
翌16日、いつもあたたかく家族のように迎えてくれる友人たちに誘われて食事に出かけた。ラグーナを走るボートの風が、最高に心地よかった。
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21 ago 2024
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