「二つの伝説」 ヨゼフ・シュクヴォレツキー
石川達夫・平野清美 訳 東欧の想像力 松籟社
クンデラ、フラバルと並ぶ20世紀後半のチェコ作家。プラハの春の後、フラバルはずっとチェコに留まり、クンデラは母国を離れフランス語で書き、そしてシュクヴォレツキーはトロントに亡命したが、そこで「68年出版」という出版社を設立。自身やフラバル、クンデラなどの代表作も含まれる。ビロード革命後もカナダ在住し、作家養成大学というのをプラハに設立したりしている。
他の短編集(東欧系の本以外にも、柴田元幸氏編の超短編集とか、早川書房若島正編の「異色作家短編集」とか…に、短編いくつか訳されているみたい。「ノックス氏に捧げる10の犯罪」というのがこれまた短編集でシュクヴォレツキー単独?共作?であるみたい。
作品は「レッド・ミュージック」(エッセイ)、「エメケの伝説」、「バスサクソフォン」(中編小説)。いずれもシュクヴォレツキーが好きなジャズにまつわる作品。クンデラにも、ヴィトゥスの青年時代にも通じるような。
(2019 09/16)
「エメケの伝説」から
大仰な語りで些細と思わせる出来事を詩的に語る。シュクヴォレツキーの読みどころはそこかな。
(2019 09/23)
「バスサクソフォン」あと10ページほど…
戦時中のドイツ人元サーカス回りの不具のバンドと、著者自身を反映しているかのようなチェコ青年とが一夜共演する…読みが進んで盛り上がって?きて、読み終えられるかと思ったのだけど…
(2019 09/24)
「二つの伝説」を通読してみて
これ元々は別々に発表した短編を、1980年代にこの形でまとめたもの。だから、読み終わったこと踏まえて全体的に考えてみる。
「バスサクソフォン」の
など見ると、このシュクヴォレツキーという作家が大切にしたい対象がわかってくる。芸術、通常ではない魂の叫び。
「レッド・ミュージック」(著者が若いころ加入していたバンドの名前)では、
1、ナチスドイツと共産党政権の禁書目録が重複結構ある。
2、ナチスが出したというジャズ禁止令?いちいち生真面目な条項が並ぶ。
などなど。
フラバルは下からグツグツ煮込む系、シュクヴォレツキーは上からむんずと掴んで振りかける系。そんな読後感。
(2019 09/25)
(参考)「亡命文学論」(沼野充義)から
カフカの死後、チェコ人作家のカフカ受容、あるいはカフカ的世界に関する章。シュクヴォレツキーとクンデラ、共に今は亡命文学者となった二人のエッセイから。
(クンデラについては、「小説の技法」を参照)
シュクレヴォレツキーの方はチェコ語訳(あ、そうそう、忘れがちだけど、チェコ人にとってカフカは翻訳で読むものなんだよね)「城」を「フランチシェク・カフカ著」として見つける。ナチス政権下にあってカフカは禁書であったが、このチェコ人っぽい名前によって、プラハの古本屋に残っていたのだった。
さて、故郷のナーホトからプラハにやってきた理由はジャズ・フェスティバルのため。「城」を見つけた彼は友人のジャズミュージシャンのところへそれを見せに行くが、グズタフ・ヤノーホ(「カフカとの対話」の著者)がジャズの演奏技法の本を書いているということを知らされる。シュクレヴォレツキー達にとってはジャズの本の方が既知であったが、今の私達には逆だろう。というか、ナチス政権下でグッドマン始めジャズがそんなに聴かれていたということに驚いてしまうのだが。
(2016 12/18)