短編その10 足切り

文字数:1,500字程度
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 ——本内容は、裏バイト参加者の実体験録である——

 足切りってあるだろ。
 試験でよく言われるやつ。いわゆる合格ライン。
 ある程度の点を取らないと…って、皆足切りを越えるように頑張るだろ。
 まあ実際は足を切るわけじゃないから、まあそこで落ちたとしても次の試験で頑張ればいいだけの話なんだけどさ。
 でも俺、本当の足切りがある試験をやったことがあるんだ。
 え?言葉のとおりだよ。足だよ、足。足を切っちまうわけ。バチンッて。めっちゃでかい裁断機ってやつで。
 驚いた?ひとまず続けていいかな。ええと、それをやったのは、俺が大学の時だった。今からもう六年も前の話になるんだけど。当時は講義も受けずにパチンコやらピンサロなんかにハマってて。でも普通のバイトで稼ぐ程度の金じゃ、すぐに底ついちゃうわけ。だから普通じゃないバイト、やってたのよ。
 そうそう、裏バイトってやつ。適当にネット漁ってたらヒットしてさ。試験に一回参加するだけで、五十万。すげえだろ。一回だぜ?一日でも、一ヶ月でも、一年とかでもない。それぽっきり。俺の初任給なんざ、その半分もなかったぜ。
 まあそれはいいや。でな、ひとまずやるっきゃないって、すぐさま応募したわけね。そうしたらすぐに返事が来て、明日はどうですかって。おいおい急だなって思ったけどさ、前日だっけなあ、タカシ(偽名)に借金の返済催促されてたから、金は入り用だったわけで。やるしかないだろって、すぐにオーケー、快諾ってやつをしたんだ。
 そんなこんなで試験に臨んだわけだけどさ。東京の●●駅、歩いてすぐにある■■ビルだっけかな。そうそう▲▲総合病院があるあたり。その病院の真隣ね、そのビル。めっちゃ綺麗なビルでさ、そこのエレベーターで地下二階に降りたとこが会場だった。
 会場はガラス張りで、廊下からも見えてたんだけど。白い部屋に長机が何台も横に並んでてさ。何人も、席に座ってたよ。全部で、二十人はいたかな。机に向かって、皆同じ鉛筆持って必死に紙になんか書いてて。こんな裏バイトに関わる連中、いるんだって思ったよ。
 でもそれ以上に「やべえ遅刻したかな」って焦ったんだけどな。ただ、運営の人がいたからめっちゃ謝ったら、「まだ定刻になってない」って。焦った分めっちゃ安心したの、覚えてる。
 そんでその後、運営の人に言われたとおりに俺も会場に入って、試験に参加したよ。問題は三十問だったんだけど、途中は中々きつくて。でも金のためだって思ったら何とかクリアできたんだ。
 試験が終わった後は茶封筒を渡されたよ。中には万札どっさり。まさかの手渡しかよって思ったけど、こんな訳あり内容じゃ妥当だよな。流石の俺も神経使って参っちまって、もう懲り懲りって、後はそれっきりだな。
 あ、俺はちゃんと足があるよ?このとおり。
 靴を脱げ?ったく、疑い深いなあ。ほら、あるだろ。きちんと生足、生足。
 安心したって?そりゃ、よかった。
 試験は難しかったのかって?わかんねえ、難しかったのかな。問題なんて覚えてないよ。
 本当に足を切るのかだって?まあそうだよな、今の話と俺の足もいたって普通だし、問題も覚えてないってなりゃ、嘘くさいっちゃそうだよな。
 でも残念ながらマジだぜ。だって、まだこの手に感触が残ってるもん。六年も経ってんのに、今もまだ。
 いつになったら消えるだろうな。あの、吐きそうな臭いと悲鳴と、ああ。気持ち悪い。これで五十万とか、洒落になんねえ。
 ちなみに切った足は綺麗に血を洗い流して、パッキングしたら保冷剤と一緒にクーラーボックスに入れるんだ。そんで、試験終わりに白衣着た連中が取りに来るのがお決まりだった。何に使うんだろうな、あんな沢山の足。
 今も変わらず、やってんのかなあ。足切り。

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