ふじしろ ふみ
短編小説(ショートショート含む)を まとめてみました。よければ是非。 ※更新頻度は不定期となります。
文字数:1,500字程度 ------------------------------------ ——本内容は、裏バイト参加者の実体験録である—— 足切りってあるだろ。 試験でよく言われるやつ。いわゆる合格ライン。 ある程度の点を取らないと…って、皆足切りを越えるように頑張るだろ。 まあ実際は足を切るわけじゃないから、まあそこで落ちたとしても次の試験で頑張ればいいだけの話なんだけどさ。 でも俺、本当の足切りがある試験をやったことがあるんだ。 え?言葉のとお
皆様、いつも私の作品をお読みいただき、 ありがとうございます。 つい昨日、長編「侵入者」の投稿が終わりました。 前も言いましたが、 この作品は着手から完成まで二年かかりました。 仕事もそうですが、子どもが二人いるので、 本当にちまちまやるしかなく。 私の中では血と汗の結晶です。 そのため、読んでいただけている方全員に対して、感謝いたします。本当に嬉しいです。 しかし、いかがでしたでしょうか。 少し長かったでしょうか。 これだけ長くなると、書く上で苦労することもあり…
「つまり彼は、あなたのことを冬子さんと?」 「ええ」 ありさは、目の前の尚哉を見つめ、こくりと肯いた。 「真琴さんに初めて会った時、姉の元の顔と瓜二つの顔を持つ私の存在に、彼はとても驚いていました。でもその時は、ただ優しいだけの義兄だったと思います」 真琴の態度が変わり出したのは、つい数ヶ月前のことであった。彼女のことを冬子のように扱うなど、明らかにそれまでの優しい義兄とは異なって見えた。 「一番おかしいと思ったのが、二人だけで写真を撮りたいと言われた時です。姉さんの顔を
目の前にうつ伏せで倒れている尚哉を、真琴はじっと見つめた。 何が起きた?真琴は彼を撃っていなかった。撃つ直前で、彼はその場に崩れ落ちた。何が起きたのか、真琴も分かっていなかった。 拳銃を持っている手を下ろし、うつ伏せに倒れた彼の体を軽く蹴る。動かない。しかし意識を失っているだけで、生きてはいるようだ。 尚哉の後頭部へ、拳銃を向けた。自分の顔、やったことを知った以上は、彼も殺すべきだ。幾度目になるのか、またも尚哉に照準を合わせたところだったが、結果的に真琴は、彼を撃たず
一か八かの大勝負。心臓がばくばくと激しく鳴っている。この状況、自分を主役から第三役へと引き下げるには、自分への興味を他者に移すこと。それが一番手っ取り早い方法だと、尚哉は考えた。 「ははあ。なるほど」 鳩が豆鉄砲を食ったような表情から一転、貴明はにたにたと下卑た笑みを浮かべる。それから高らかと、尚哉を尻目に入り口へ声をかけた。「出てこいよ。俺はここにいるぞ」 静寂。かと思いきや、案外すんなりと出てきた。真琴と志織、両名。真琴は既に拳銃を持つ手を挙げているが、銃口は貴明に
「久しぶりだね、叔父さん」 ぴたり。男はしきりに動かしていた腕を止めた。そのまま首を回し、肩越しに尚哉を見る。父親とそっくりな顔。しかし所々、違う。尚人の息子である自分だからこそ、分かる。 「驚いた。尚哉君か」 若月の言ったことは正しかったようだ。叔父が…あの、真面目を絵に描いたような貴明が清河を殺し、今は目の前で、死体を弄んでいる。尚哉は驚きを隠せなかった。 叔父は手に持っていた細い…鋸だろうか。それをテーブルの上に置く。そうして、尚哉のいる方に体を向けた。そこでよう
屋敷内は不気味な程に静まり返っていた。 真琴と冬子、檻から出された尚哉の三人は、二階の空き部屋を出て、廊下を進む。先頭は尚哉。後方に銃を構えた真琴と、冬子を最後尾に、一同は二階中央の階段までやってきた。 途中、瑛子の部屋の前を通っ た。ノックするも返答は無い。ドアノブを回すと施錠はされておらず。しかし入室するも、彼女はいなかった。 瑛子はどこにいってしまったのか。同行する二人…特に冬子は気が気でないようで、娘が娘の部屋にいないことがわかると、あからさまに動揺した。
「つまり」尚哉は唾を飲み込んだ。「冬子さん。あなたは、藍田雛子と芳川貴明の手で、殺された。そういうことになるのか」 冬子の話は信じがたいものばかりだった。しかし否定することもできそうになかった。 「あの日…『私』が死んだあの日。私は義母に、この家の書斎に呼び出された。部屋に入った瞬間、後ろから誰かに口を塞がれたわ」 それから意識を失った。冬子はそう述べた。 「目が覚めると、あのマンションの屋上だった。手足は自由だったけど、目の前にはその二人がいた」 ——死ね。 「
「家中に、これをまいてもらえるか。終わったら、一階の応接間で待っていてほしい」 今朝、瑛子は真琴からそう命じられた。前から、それを今日やることは決まっていた。ポリタンクには、液体が入っている。ただの水ではないことは、幼い彼女でも知っていた。 「これは家族の時間を得るために必要なことなんだ。わかるね」 ポリタンクの液体を屋敷にまくこととそれが、なんの関係があるのか。齢十も超えていない瑛子では、両親の考えを全て理解なんて、できなかった。 しかし瑛子は、両親も自分と同じ思いだ
尚人は、弟の貴明を心底嫌っていた。 産まれてから今に至るまでの半世紀、尚人の彼に対する強い劣等感、嫉妬、様々な想いは、留まることを知らなかった。 芳川貴明という存在、彼の全てを、殺す。そうすることで、尚人の復讐は完成する。 そのキーとなる存在が、彼の娘である志織である。彼女を、藍田家の住人殺害の犯人で、顔剥ぎの正体にしよう。大会社の娘が殺人鬼。被害にあった者達はライバル会社にゆかりのある者達。その会社の元社長に、貴明は親を殺されている。復讐も兼ねて娘を当てがい、犯
文字数:1,600字程度 ------------------------------------ そのお寺の境内には、自然豊かな池があります。 その中に一匹、大きな錦鯉が住んでいました。全身が白に赤の鮮やかな模様、丸々と太ってもったりと動くその様は、池を見る何者も魅了していました。 そんな鯉は、先月からある女性に恋をしていました。 彼女は人間で、同じ脊椎動物といえども魚類の鯉とは種が違います。そうだというのに、鯉はその女性を好きになってしまいました。 「はあー
秘書の男が現れてから、家族…いや、冬子が事件や事故に巻き込まれるようになった。 車に轢かれそうになったのが数件、不審者に付き纏われたのが数件。軽症ながらも、怪我をすることもあった。 「お義父さんの、仕業よね」 ある日瑛子が寝た頃を見計らい、冬子はそう切り出した。真琴も同意見だった。真琴が要求を拒絶したことが、彼に伝わったのだろう。 しかし勝治程の男が本気を出せば、殺したり、重傷を負わせたり、どうとでもできるはずである。それをあえて、すれすれのところで留めるあたりに、気
勝治と決別後、真琴は大学を中退し、冬子と共に遠方の地に移り住んだ。 それから数年を経て、冬子は第一子…瑛子を出産する。贅沢な暮らしはできずとも、家族全員仲睦まじく暮らしていた。 そんな彼らのもとに、突如勝治の秘書を名乗る男がやってきた。今から五年近く前、瑛子が三歳の頃のことである。 「結婚?」 「はい。社長より、真琴様に結婚のお話を、と」 自分の居場所を何故知っているのか。それはもはや問題にならなかった。まさに晴天の霹靂。結婚?自分が? 「あの。俺はもう、家族がいる身
真琴と冬子は、真琴が十八の時に初めて出会った。 その時、冬子は真琴の父の、勝治が所有するマンションの屋上から、身を投げようとしていた。真琴が彼女を見つけるのが数秒でも遅れていたら、彼女はこの世にいなかっただろう。 冬子は行くあてが無かった。群馬にある実家を出て、道すがら知らぬ男の家を渡り歩き、ここまでやってきたのだという。 自殺は衝動的なものだった。己の人生、生きる意味を見出せなくなった。彼女はそう、真琴に話した。 「お父さんに、呼ばれた気がしたの」彼女は亡霊の
「あなたは…」尚哉は頭の中で情報を整えながら、檻の向こうにいる彼女に問うた。「志織さんじゃない、のか」 彼女は藍田志織。容姿に間違いはない。そのプロポーションの具合は、早々いるものではない。 しかしありさは、彼女を「姉さん」と呼んだ。尚哉の記憶では、志織は一人っ子で、兄弟姉妹は存在しない。 別人。彼女の顔をした何者か。 既に、尚哉の頭には彼女の名前が浮かんでいた。 志織は若月に向けていた拳銃を下ろした。そうして、力なく笑みを浮かべた。 「何を言っているの。私はあなた
勝治と雛子の部屋の隣、隠し部屋に繋がる真琴の部屋を過ぎ、その更に隣の部屋に貴明はたどり着いた。 強い臭いが鼻につく。頭がくらくらする。ここは志織の部屋か。清河の言うとおり、床やベッド、部屋中に血が撒き散らされている。当の本人はいない。 清河はこれを見て、彼女が危機に瀕していると考えたのだろう。全体に視線を這わせると、血の跡が床に、まるで道のように延びている箇所があった。 行き着く先はクローゼットだった。間髪入れずに開けるも、衣類以外に何もない。しかし血の跡は不自然な程