見出し画像

リハビリ専門職が知っておべき!患者の心理状況【3つの喪失体験】

人が病やケガを負い、それによる障害を抱えた際には特有の心理状況に陥ります。

患者に特有の心理状況を理解しておくことで、スムーズにコミュニケーションを図り、心を通わすことが可能になります。


患者とセラピスト、お互いの共感とそれにもとづく信頼関係(ラポール)がなければ、リハビリテーションを円滑に進めていくことはできません。

私も理学療法士として働き始めたばかりの頃は、自分の「良くなってほしい」という思いばかりが先走っていました。お互い“相手がわかってくれない”というイライラを抱えていたように思います。


そこから患者がどんな心理状況にあるのかを学びました。

人はどんな悲劇からも立ち上がる力を備えています。

その力が発揮されるよう、焦らず、その時々で必要な声かけやサポートをするよう心がけました。その結果、患者はセラピストを受け入れてくれ、機能回復や生活レベルの成果も上がるようになったんです。

病や障害による患者の心理状況には3つの「喪失」体験があることを理解しましょう。

全能感の喪失

画像2

自分の思考や行動を自らの意思でコントロールできるという認識を「操縦性(コントローラビリティ)」といいます。コントローラビリティを持っていることは主観的な「幸福感」を決める重要なカギです。

どんなにお金や物に不自由しない環境だったとしても、やることなすことすべてを他人から決められる、「自由のない」生活は窮屈で仕方ないでしょう。

つまり「自分の生活や人生を自分で決められる」と感じているほど、幸せであるといえます。


しかし病や障害によって本人のそれまでの自立した生活が一変します。

例えば、食事や着替えをするにも人の手を借りなければいけない、自分で好きなときに好きなところへ行けないといった状況に陥ります。

その結果、“自分にはもはやこれまでできていた生活をコントロールすることはできない”と自信を喪失してしまいます

つながりの喪失

画像3

人はどこまでも「社会的」な存在です。

自然界では肉体的に弱いヒトにとって、生き抜くためにまわりの人間と良好な関係を保っていくことが絶対不可欠でした。現代人にもこの遺伝子は宿っていて、ふだんの考えや行動はいちいち、まわりの人間関係を考慮したものになっています。

たとえ“一人の時間が好き”という人であっても、まったく誰とも関わらないことはないでしょう。


病や障害を負った直後は療養のために“社会から切り離された”、“脱落してしまった”という「孤立感」が強まります。

身近な家族やパートナーと離れ離れになる
職場・地域での立場や役割を失う
趣味やスポーツに参加できなくなるー。

人と人との「つながり」を失うことは、社会的な存在である人間にとって大きなストレスとなります。

全知という感覚の喪失

画像2

「全知全能の神」というように「全知(全智)」とは、「すべてを見きわめる知恵、完全な知恵(デジタル大辞泉より)」。

“今日は何をしようか”、“どの道を行こうか”、“何を食べようか”ー

ふだんの生活で私たちは、一日6万回もの選択と決断をしています。まわりの人から助言や指導を受けることもあるでしょうが、最終的に決めているのは自分自身です。


病や障害によって自信を失い、それまでは自分で決めていたことがらや身のまわりの些細なできごとに対しても適切に判断することが困難になります。

自分の人生は自分で決める主体性がリハビリテーションの概念。しかし全知という感覚を喪失している患者を目の前にしてセラピストは、生活自立や社会復帰を焦ってはいけません。

まとめ

リハビリテーション 歩行

病や障害はその人の生活を一変させ、自己(自分とは何者かという感覚)を揺るがします。いわば“人生の危機”。

リハビリ専門職は、患者がこのような心理状況におかれることを理解したうえでコミュニケーションをとり、セラピーにあたるのが肝心です。

落ちんでいる患者に対してむやみに“元気だして!”と励ますのは、逆効果。“私の気持ちも知らないで!”と拒絶されるのがオチでしょう。


患者が抱えている3つの「喪失」を知ったうえで、その気持ちを理解しようと寄り添うことからコミュニケーションは始まります。

喪失体験をへて患者が病や障害を受け入れ、前向きに進んでいく過程についてはまた別記事でご紹介します。

ぜひ本記事があなたと患者の良好なコミュニケーション、円滑なセラピー実施にお役立ていただければ幸いです。​

参考書籍



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?