人を振り向かせるコンテンツをつくり続けるために。
アニメを観ていて、その声が耳に残った。ハスキーボイスで温かみがあり、その声が自分を振り向かせた。スマホを取り出して、すぐさま検索エンジンをかける。「A、i、m、e、r……アイマーいや、エメか?」フランス語で愛するという意味だそうだ。大人になってから声が魅力的で振り向く経験がなかった。それほどまでに衝撃的だったのだろう。
それが、Aimerさんとの出会いだった。
2017年6月、はじめてLIVEのチケットを取った。京都ロームシアターの2階席、アーティストの顔が見えるか、見えないかくらいの距離からLiveを楽しんだ。セットリストには自分を振り向かせた曲もあった。その余韻に浸りながら、梅田に向かう阪急電車の中でファンクラブに入会するのだった。
そこから、毎年のようにLIVEに参戦することになる。元々、オタク気質な性格だったこともあり、Aimerさんがどこの音楽事務所に所属をしているのかが気になり始める。有名な音楽事務所なんだろうな……とイメージしていた。
「アゲハスプリングス……!」ハッと頭の片隅から記憶が蘇る。はじめてLIVEに行ったイベントの主催にあったことを思い出した。
「アゲハスプリングス Aimer」と検索して関係性を知る。
そして、とある書籍を見つけた。
人を振り向かせるプロデュースの力 クリエイター集団アゲハスプリングスの社外秘マニュアル 著:玉井 健二さん
音楽プロデューサー玉井健二さんの著書であり、ご自身のバックグラウンドを振り返りながら、ヒットコンテンツを生み出すための方法論、どのようにすれば、「永く愛されるコンテンツ」を生み出せるようになるのかを徹底的に考えられた一冊。
自分は音楽は好きなのだが、どんな風に楽曲が制作されて、どんな風にユーザーに届くのか。この本を読むまでよく分からなかった。
一部抜粋であるが、玉井さんがプロデュースをするための物差しとして、必ずWINであること。思いつきや感覚だけでなく、プロジェクトに関わる人が幸せであることが道筋として見えている。目的と根拠が明確であるからこそ、プロデュースができる。当たり前のようだが、相手のWIN、自分のWINを考えることが核心なのだということ。
ブランディングの重要性
どういったビジュアルで、世界観で、どのように表現をするか。アーティストのコンセプト設定にしっかりとした付加価値があること。結果的に売れても長い目で見て続かないことがないよう設計図の通り、関係者たちと綿密に話し合いながら想定した場所に舵を切れるようにすることだった。
特に自分に響いたのが、
ウィークポイントをウィークポイントにしない
新人クリエイターのブランディングについての例があり、その対象について徹底的にプロファイリングするという。この章を読んだ際に、ふと疑問に思うことがあった。自分の得意分野ではなく苦手分野のキャリアを積ませるという。デビュー当時から数年、Aimerさんの曲は、眠れない夜にそっと寄り添ってくれるようなバラード曲が中心だった。約3年ほど前からアップテンポな曲も増えている。
(考察)本当の得意分野はアップテンポの曲なのでは?と、
得意分野=それしか出来ない人というイメージが出来てしまうと、その人の音楽が流行らなくなった場合、消えてしまう恐れがあった。
その不幸を防ぐために、自分では不得意であると思っていることからキャリアを積み、元々持っていた得意分野に奥行きをつけることで、良い認知をしてもらう。そして、バラード曲だけでなくアップテンポ曲もできる=本物の人として認められる。
着実に積み重ねることで、良くも悪くもレッテルを貼られることなくブランドになっていく。目の前の利益を優先してしまいそうだが、その積み重ねが、将来的に沢山の人に良いカタチで伝わるのを考えてのことだった。
「何だか分からないけど、あそこの会社がつくるものはいいよねと言ってもらえること」
アゲハスプリングスが初期設定として掲げていた。
何だか分からないというものがあり、楽曲のクレジットが気になってしょうがなくなるという心理にまで持っていく圧倒的なコンテンツ力で、業界関係者やユーザーを魅了していく。
初期のAimerさんは、メディアの露出がほとんどなく。公式Youtubeですら、顔がよく見えないカメラワークでほぼ歌声のみであった。
LIVEに足を運ばなければ、実際の顔を見ることが出来なかった。それも、純粋にコンテンツを愛してくれる人に振り向いて欲しい戦略だったのかもしれない。
話題となったドラマ「あなたの番です」の主題歌『STAND-ALONE』のようなドラマの緊張感を表現したアップテンポな曲、iichikoNEOのCM曲である『悲しみの向こう側』のような心がキュッとなるような表現をしたバラード曲もある。
そして、鬼滅の刃遊郭編の主題歌、OP曲『残響散歌』、ED曲『朝が来る』大人気アニメにタイアップしたという事実は間違いなく、良いカタチでコンテンツが認められたからこそ広がり、沢山の人が振り向いた事実なのだと思う。