【小説】私は空き家(豊中市築47年)3
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今日は朝から雨が降っている。
昼過ぎにまさみさんがやって来た。手際よく窓を開け、空気の入替えに余念がない。
程なくして、スーツ姿の2名がやって来た。以前にも増して明るい表情に見て取れる。一方、二人を迎えたまさみさんは、緊張した面持ちだ。
世間話の後、スーツ姿の男性がわたしの今後について提案を始めた。
「リフォーム工事をして、『戸建賃貸』として運用しましょう」
「リフォーム工事、設備を交換する箇所、間取りの変更案を提案書にまとめてきました」
「工事費用は概ね500万円です」
「家賃収入は、月額7万~8万円が想定されます」
スーツ姿の男性は、図面や設備のカタログ、資金の流れをまとめた計画書など、資料を提示しながら丁寧に説明していく。
黙って聞いているまさみさんに、先日も話しをした、スーツ姿の女性が話し掛けた。
「ご質問やご要望、ご不安な点はございませんか? どんな事でも、何でもお聞かせください」
穏やかな表情で問いかけた女性に、まさみさんが口を開く。
「確かに大切な家ですが、そこまで大金を掛けるのはどうかな、と……」
「確実に家賃が入ってくるか、不安です」
「資金的にそこまで余裕もないし」
「賃貸経営なんてしたことがないから、入居者とのやり取りを、どうしたらいいのか」
「行く行く売却する可能性もあるし」
まさみさんは、堰を切ったように次々と不安を口にする。
「築47年の家に、そこまで大掛かりなリフォームをする必要があるんですか?」
「こんな古い家、借りてくれる人がいるんでしょうか? 工事直後はいたとしても、その人が退去した後、次の人は見つかるものですか?」
特に気になるのはその2点のようで、熱心に問いかけている。
そんなまさみさんに、男性が「ご不安はごもっともです」と同意する。
「工事内容については、全面改装までは不要ですが、中途半端な修繕・クリーニングでは、入居者の確保が難しいところがあります。やはり、キレイで清潔な物件が好まれますから」
「工事にかける自己資金の軽減策としては、工事項目を減らすのではなく、資金調達の方法を考えるべきです」
「入居者の確保、つまり家賃収入の確保という点では、当社が借主として10年間定額賃料で借り上げる『一括借上げ制度』をご利用いただくことが出来ます。
また、工事資金の一部を弊社が負担し、共同事業として運用していくプランもございます」
「古家をリフォームして賃貸経営を行う上で、表面利回り10%以上というのが理想です。このお家は、それが叶う物件です」
「工事後の賃貸管理は、当社にお任せいただけます。入居者様とのやり取りは当社が行いますので、ご安心ください」
「売却の可能性も視野に入れて、運用プランを考えていきましょう」
まさみさんの不安に対して、男性は一つずつ丁寧に回答していく。
緊張と不安から硬くなっていたまさみさんの表情が、男性の話を聞く内、次第に柔らかなものに変わっていった。
「『共同事業化』のこと、もう少し詳しく教えてもらえませんか?」
まさみさんは、資金面においての『共同事業化』という内容について興味を持ったようで、念入りに質問を繰り返していた。
一通りの説明と質問を終え、本日の来訪は終わりを迎えた。
「検討してみます。少し時間をください」
まさみさんの言葉を受け、一週間後にまたここを訪れる約束をし、スーツ姿の2名は帰っていった。
まだ荷物の残る家に一人、まさみさんの表情はいくらか明るくなっていた。
「戸建賃貸経営、資産運用か……」
「200万~300万くらい、定期預金をくずしてみようかな……」
まさみさんは家の中を見回しながら戸締りを終え、玄関の鍵を閉めて帰っていった。
雨はすっかり止んでいた。
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『私は空き家』とは
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※『私は空き家』はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。