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『シャイニング』の陰謀論〜謎の数字42 ①


 『シャイニング』には“42”という数字が何度も現れると言われます。
 それは事実でしょうか。もし事実ならば、それにはどういう意味があるのでしょうか。

 陰謀論と言われかねない話題を探求します。

 私の結論を先に言うと、確かに一度でも意識してしまえば無視できない程度に〝42〟が現れます。しかし、なぜ“42”なのか、その理由や意味は私には分かりません。かと言って、全くの妄想や偶然とも言い切れない。なぜならキューブリックは、評論家ミシェル・シマンのインタビューの中で心理学者フロイトのエッセイ『不気味なもの』(1919年)を引用しているからです。
 フロイトは『不気味なもの』において、一見無関係な事柄に同じ数字が繰り返し現れると、人はそのことを不気味と感じる、という主旨のことを述べています。キューブリックがそれを参考にした可能性があります。
 そして“42”という数字は41や43とは違い、なぜか様々な分野に現れる、少し“特別な”数字だからです。“42”がどのように“特別”なのかは後で書きたいと思います。

 まず、『シャイニング』の中に“42”という数字が事実として何度も現れるのかということを確認しましょう。
 42という数字が確認できるとされるのは以下の場面です。
①ホテルの駐車台数が42台
②ダニーの服にプリントされた数字が42
③ホテルのテレビで観ている映画の題名が“Summer of ‘42”(邦題は『おもいでの夏』)
④ハロランが運転するレンタカーのナンバー・プレートに42という数字が入っている。
⑤ハロランが運転する雪上車のハザード・ランプが点灯する回数が42回
⑥ウェンディがジャックに対してバットを振り下ろす回数が42回
⑦ダニーが「レッドラム」とつぶやく回数が42回
⑧237号室という客室番号を構成する各数字を掛けると、2×3×7=42になる。
⑨ラストショットで映される写真が撮影された年月日が1921年7月4日。
 1+9+21+7+4=42となる。
または1+9+2+1+7+4=24となり、42を鏡像反転した数字になる。
この時、壁に架けられた写真が21枚であり、42の半数。

しかし、一方で“42”とは無関係な数字も多数あります。
❶ハロランがダニーの危機を知る場面で聞こえる心拍音の回数。
❷ウェンディがめくるジャックのタイプ原稿の枚数は24〜25枚。
❸ジャックが斧を振り下ろす回数。
❹ホテルが開業した年は1907年であり、42とは無関係
❺『おもいでの夏』以外のテレビ番組は42と無関係

それぞれについて検証してみます。
①ホテルの駐車台数
 『シャイニング』の冒頭ではジャックの運転する黄色いフォルクスワーゲンが峻厳な山道を走り“オーバールック・ホテル”に向かいます。そしてこのオープニング・シークエンスは“オーバールック・ホテル”の全景で終わります。そのショットでホテルの駐車場に停まっている自動車の台数が42台だと言うのです。
 本当でしょうか…?
 下の写真が問題のショットです。数えてみると確かに42台停まってます。ただし右端の赤い雪上車を除けば。
 しかしこの全景ショットはわずか数秒間です。静止画にして初めて数えることが出来るのです。劇場で上映中に数えるのは不可能です。初上映されたのは1980年、レンタルビデオさえ普及していない時代でした。

さあ、数えてみよう!


映画『ROOM 237』より ※註1

  “オーバールック・ホテル”の外観として撮影されたのは、アメリカのオレゴン州に実在する「ティンバーライン・ロッジ」です。このホテルは、先住民の墓地を破壊して1907年に建てられたホテルではなくて、ニューディール政策の一環として1937年に建てられた年中無休のリゾート・ホテルです。

 年中無休で営業中のホテルにおいて、撮影の為に駐車場の車両台数をコントロールすることは可能だったのでしょうか。
 正面玄関前にパトカーらしき車が停まっていることも気になります。
また、42台の内、フォルクスワーゲンらしき車が4台も停まってます。しかも黄色が2台です。偶然にしては多過ぎないでしょうか。しかしそれが何を意味するかは分かりません。

パトカーらしき車両


 別の場面の駐車場には黄色いフォルクスワーゲンが1台しか停まっていません。

『シャイニング』の一場面
『シャイニング』の一場面

 
 さらに別の場面では、キューブリックの指示通りの部屋に窓の灯りが点いています。
 つまり、営業中でも意図的に駐車台数をコントロールすることは可能だったようです。

ロケハン写真に書き込まれたキューブリックの指示


『シャイニング』の一場面


 撮影の際に駐車場をコントロールしたのかどうかは、当事者に訊けば直ぐに判明するでしょう。しかし、今(2025年)となっては当時の事情を知るのは数人の撮影スタッフやキューブリックの義弟であるヤン・ハーランくらいです。
 ハーランは『シャイニング』のエグゼクティブ・プロデューサーでもあり、なおかつ現地でティンバーライン・ロッジとの撮影交渉の実務を担当しました。
 ティンバーライン・ロッジで撮影したのは少人数の第2班です。キューブリック自身はイギリスを離れず、現地には行ってません。映画中で俳優の背景に映っているホテルは、全てロンドン郊外のスタジオに建てられたオープン・セットです。

ロンドン郊外でのセット撮影風景(中央がキューブリック)


ロンドン郊外のエルスツリー・スタジオに建てられたオープンセット


 雪上車を除けば、駐車場には確かに42台停まっています。駐車台数を意図的に42台に調整するのは不可能ではなかったようです。しかしそれが意図的だったのか、偶然だったのかは不明です。
 いずれにしても、上映中にこの場面で“42”という数字を観客に意識させるのは無理でしょう。

 次回はダニーの服装にプリントされた“42”を検証します。
②に続く…。

※註1: 『ROOM237』



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