小娘が、かつて貪り読んだケンカ必勝法【#人生を変えた1冊】
20代の頃、無性にケンカに勝ちたかった。
(誤解されると困るけど、拳と拳でぶつかり合うやつじゃありませんよ、念のため。)
その頃、私は就職してしばらくたち、ようやく社内でも右か左かがわかりはじめた、生意気な小娘だった。
当時の職場の思い出は、直属の上司に恵まれ、楽しいものであった。
でも楽しいことばかりだったかというと、嘘になる。よくよく思い返すと、自分の部署以外の場所で、理不尽な目に会うことは結構あったのだ。
入社したばかりの頃は、まだよかった。
無邪気に「ハイっ!」とお返事して頑張っているだけで、達成感を得ることが出来た。
でも、いつの頃からだったか。周囲からの言葉に、気持ちがささくれるようになってきた。
上から下までなめ回すように、私を見るセクハラ上司。
5分ですむ話が、ネチネチとした15分の説教に変わる上司。
女の敵は男かと思いきや。
「◯◯さんが、あなたの悪口言ってたよ」
と、わざと私の耳に吹き込む先輩。
他にも、「若い女の子というだけで、チヤホヤされている!」と勝手に妬んでくる中年のパート女性なんかもいた。
…女の敵も女だった。
にこにこ笑って誤魔化すか、口をつぐむしか能のなかった私は、密かにふつふつと怒りをたぎらせるのであった。
その頃の私の楽しみは、金曜日の晩に書店へ足を運ぶこと。
残業で疲れた身体を引きずり、閉店の音楽に焦りつつ、週末、家で読む本を選ぶのだ。
週末は仕事のことなんか考えたくない。
自然と、ミステリーだとか、マンガ文庫だとか、会社とはまったく違う世界の話を手にとるのが常であった。
そんな時、書店に平積みしてあったのが、この本。
遥洋子・著『東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ』
テレビを見ることのなかった私は、著者の遥洋子がタレントであることを知らなかったし、無知な私は東大に上野千鶴子という有名な教授がいることも、この書籍ではじめて知った。
本の帯には、こうある。
「あなたは、とどめを刺すやり方を覚えるのではなく、相手をもてあそぶやり方を覚えて帰りなさい。そうすれば、勝負は聴衆が決めてくれます」
一瞬で心を撃ち抜かれた。
私は、この本を読むべきだ!
速攻で買って帰った。
買おうと思っていた、エンタメ系の書籍のことなど忘れて。
この書籍は、知の宝庫である東大に、女性タレントが飛び込んだ学問の記録だ。
セクハラや女性蔑視が当たり前の魔窟・芸能界で荒波にのまれ、あっぷあっぷしていた女性が、社会学という知恵を得たことで、つかみとった濃密な3年間の記録だ。
学ぶことは、厳しく時に辛い。
でも真面目に、面白おかしく、知識を得ることの大切さを教えてくれる。
知識は武器だ。私は、それをこの書籍で学んだ。
『ケンカのしかた・十箇条』は、多いに私のことを助けてくれた。中でも、
その9、『声を荒らげない』
その10、『勉強する』
この2つの極意は、貴重だった。
この当たり前のような極意が、重要な局面の支えとなった。
さて結局、私がケンカに勝てるようになったかというと。
勝ち負けは、もはや、どーでもよくなってしまった。ジャッジは、他者が下すもの。
ただひとつ、この書籍は未熟だった私のお守りのような存在だということだ。
これからも私のバイブルであり続けるだろう。