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どうしてお医者さんが「屋台」や「本屋」をやっているんですか?ケアと暮らしの編集社・守本陽一さん/たかしまデザイン会議DAY.4
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むしゃむしゃむしゃ。会場のみなさんの手元には「おはぎ」がありました。用意したのは、「おとも食堂」のみなさん。ふくしデザインゼミローカル2024から生まれたプロジェクトです。
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ぼうぼうぼう。薪に火を起こす高校生たち。この日は、庭でテントサウナを行いました。薪を用意してくれたのは、社会福祉法人ゆたか会の水野さん。もちろん高島の薪です。
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着々と、TAKASHIMA BASEでの過ごしかたが広がっています。そして匂いや音がゆたかに増えています。
そこへ、兵庫県豊岡市から車で駆けつけてくれた守本陽一さん。TAKASHIMA BASEの活動に興味を持ち、noteなどを読んでくれていたそう。
「いや、ほんとすてきですね。いや、ほどいい。無理のない見せかたと地域へのひらきかたと。ほんとすてきですよ」
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守本さんは、総合診療医とよばれるお医者さんです。だけど、白衣は着ません。診察室がありません。薬の処方をしません。白衣の代わりに私服で、診察室の代わりに屋台カフェを営み、薬の代わりに“つながり”を処方してきました。
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2020年には、8万人が暮らす豊岡市に私設図書館・本屋「だいかい文庫」を立ち上げます。
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守本さんが代表を務める「一般社団法人ケアと暮らしの編集社」は、豊岡市で暮らしのなかのケアの場を営みつつ、日本各地へケアするまちを広げる活動もしています。兵庫県養父市では、日本初となる「社会的処方推進課」の設置を2023年に支援しました。オンラインコミュニティ「ケアまち実験室」の実践も。
高島市内外から「ケア」に関わる人が多く集まったこの日。会場からは12の問いが寄せられ、つぎつぎと交わしていく時間になりました。
問い どうしてお医者さんが、屋台カフェをはじめたの?
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医大3年生のときです。公衆衛生の視点から地域の健康課題と出会う「地域診断」を豊岡ではじめました。見えてきた課題解決のために健康教室をひらいたものの、参加者はたったの一人だったんです!
医療的な正しさだけでなく「おもしろそう」「楽しそう」という気持ちが大切だったんですね。そこで2016年にはじめたのが「モバイル屋台de健康カフェin豊岡」です。白衣を脱ぎ、移動式屋台を引いて、コーヒーの振る舞いをはじめます。ちょっと不思議そうに集まってきた人たちと世間話をするなかで、健康相談にもつながっていきました。
問い 診察室の外で、医師免許は役立つ?
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まちに出るとき、医者の意義も役割も専門性も、原則ありません(笑) ベースは、一市民としてつながること。「専門性は氷山の一角」という九州大学・田北雅裕先生の言葉があります。まあ、医者という一角は強くて大変ですよ。 でも、いいこともあります。どんな人にも話を聞いてもらいやすく、信頼関係を築きやすいんです。
問い “先生”という肩書から降りるには?
日本の医者は、いつ“先生っぽく”なるのか。医学生や研修医として、医学的思考を身につけていくなかで、“先生っぽく”なるんです。医学的思考とは、問題を特定して治療していく考えかたのことですね。
ぼくの場合は屋台カフェをひくなかで「医者としての自分」と「生活者としての自分」のバランスを取り戻していきました。まちに暮らす人と横並びの医者をめざすようになったと思います。
問い ずばり、医療の本質とは?
公衆衛生と総合診療が医療の本質だと、ぼくは位置づけています。
“公衆衛生”の語源はPublic Health。つまり“みんなの健康”を表します。“総合診療”とは、器官ごとに分けられた医療ではなく、その人をその人としてみる医療のこと。身体、心、さらには仕事や家族関係までを総合的にとらえます。患者というよりは、このまちに暮らす一人の人間としてその人をみるんですね。
くりかえし病院を訪れるおじいさんがいました。身体は健康だけど、何度も診察に来るんです。よくよく話を聞いていくと、奥さんが亡くなられていることがわかりました。仕事一筋だったから、地域のつながりが希薄で、話し相手がいない。不慣れな家事にも戸惑いの日々。
肉体の健康はお薬で保てるけれど、その人にほんとうに必要な処方は、なんでしょうか?
問い 薬じゃなくて、つながりを処方?
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ぼくらは、社会的処方に取り組んでいます。対処療法の医薬品ではなく、原因療法ともいえる“つながり”を処方します。
社会的処方の原点は、大学6年生のときです。母が亡くなり、病院への付き添いや葬儀がすべてが終わったあと、一人部屋に残された瞬間に襲いかかる現実に、一人で立ち向かう絶望。いつものコミュニティが、ぼくを救ってくれました。
まちにはいろいろなひとがいます。学校で居場所のない子どもも、家族を失った高齢者もいる。生まれ育ちや成績、働いているかどうか、あるいは家族構成に関係なく、だれもがありのままの自分を受け入れてくれるコミュニティと出会えたら。そういう「社会的処方」をする医師になりたいんです。
*参照:守本陽一さんのnote
問い どうしてお医者さんが、図書館をひらくの?
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社会的処方とは、その人の人生に登場人物が増えていくことです。
パートナーがガン末期という人に、どんなケアが考えられるでしょうか?近しい経験をしている人とつながることかもしれません。あるいは休職中であったり、生まれつき疾患のある人とお茶をして、ひなたぼっこすることかもしれません。
強さだけじゃなく弱さでもつながれて、正しさだけじゃなくて「おもしろそう」「楽しそう」からも入っていける。屋台カフェをつうじて、いつでも集まれる場所の必要性を感じていたことからも、2020年にみんなでつくる私設図書館「だいかい文庫」をはじめました。だれでもふらっと入れて、過ごしかたも人それぞれ自由。本を読んだり、借りたり、買ったり、コーヒーを飲んだり。出会った人に話しかけることもできます。
ここで、10代から90代までの1,000を超える相談に乗ってきました。
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本には人が集まります。形も中身もその種類が豊富だから、自分を投影しやすい。だいかい文庫には、6,000冊以上の本が並んでいます。同じ本を好きな人と出会ったときに生まれる共鳴は、それほど本に個別性があることの裏返しでもあって。
図書館に並ぶ本を選ぶのは医療者、行政職員、アーティスト、学校の先生、学生… 月2,400円で一箱本棚のオーナーをしているみんなです。いろいろな人が一箱本棚のオーナーになって、その集合体としてだいかい文庫があるともいえる。みんなの出資があるから、スタッフも雇用できる。開館中は、人と場をつなぐ“リンクワーカー”がお店番をしていて、訪れた人の相談にも乗ることができます。
問い 図書館と相談の関係って?
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きほんは図書館です。豊岡の人に「だいかい文庫ってどんなとこ?」と聞いたら「図書館!」って答える人がほとんどだと思います。入館すると相談のチラシが並べてあったり、SNS投稿の末尾に「 #暮らしの保健室 #居場所の相談所」と並んでいたりもする。
いきなり相談目的で訪れてもよいし、まずは気になって、ふらっと訪れて、本を読んだり、おいしいコーヒーを飲んでほぐれ綻んだときに「あの、」と相談したっていい。その日、たまたま隣に座っていた人と話しはじめたっていい。
ケアと暮らしの編集社は入口が広く、奥行きは深いです。保健師、看護師、保育士、医師も在籍しています。市内外のいろいろなつながりもあるから、より専門的なケアができます。
問い 本を読まないんですけど…
読まなくてもいいから「生きた本棚」を眺めてみる。病院の待合室にいると「この本棚、平成?昭和?で時間が止まっている」という本棚を見かけませんか?本棚は定期的に入れ替えて、宣伝して。生きた本棚であることが大切なんです。
だいかい文庫には本屋もあります。3,000冊の本が並んでいて、豊岡ではなかなか手に入りにくい独立系出版社の本なども。ぼくが選書をしています。
本に限らない「いろいろな入口づくり」も意識していますよ。
だいかい文庫でお店番をしてくれるリンクワーカーさん。「あの人がいるから行こうかな」ということだってあります。だいかい文庫を教室に変えてみる「みんなのだいかい大学」や「ゆるいつながり研究室」もあります。
あと、まちにいくつも入口があったらいい。2024年7月には、兵庫県豊岡市にある豊岡劇場とともにユースセンター「本と映画 テルル」がはじまりました。
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まだまだありそうですよね。写真?音楽?
どれも、相談につながる活動でありながら、おもしろそうでしょ?
問い どうして“ケアと暮らしの編集社”なんですか?
ケアと暮らしの編集社は、水のように関わりかたを変えていきたいんです。
もともとケアって地域にあった営みじゃないかな?地域の中から失われたケアを、暮らしに編みこみたいんです。
「一人に寄り添いつつ、しんどかった歴史を肯定すること」がケアだと思っていて。話を聞き合ったり、ごはんを食べたり、そのままうとうと昼寝したり。なにげない日常のやりとりを重ねながら、互いを肯定しあう営みそのもののこと。
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だけど、今はケアが遠い。専門家が治すものになってる。コミュニティや子どもの遊びかたの変化も原因の一つではあるけれど、なによりケアのサービス化が大きい。サービスはお金があれば、対象者であれば、受けられるもの。サービスだから「する/される」関係が生まれ、される側が負い目を感じやすくなる。逆にいうと、お金をもらえたらなんでもする。でもそれって…お先真っ暗のディストピアなのでは?
暮らしのなかのケアを、一人ひとりの手に取り戻したいんですね。
問い 人が集まる場の設計とは?
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なんといっても「相談所ではなく、図書館をつくること」にこだわりました。それから“小規模多機能”であること。小規模だからだれかとまざり合えて、多機能だからいろいろな人がやってきます。
同じ場に集まるなかで、いつの間にか話しはじめている。人とつながるなかで、気づかずケアし合っている。混ざり合うなかで、信頼が育まれていく。霊長類学者の山極寿一さんは、「人と人は仲がいいから一緒にいるんじゃなくて、一緒にいるから仲がよくなる」と話していました。
場が動き出してからのことも。地域サービスにも営業は必要です。だいかい文庫のスタッフは、自分たちの場にこもることなく、市内外のあちこちに顔を出しまくっています。場は続けることで、価値がまちにしみこんでいくんですね。
問い どうして場をひらくの?
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場をひらきつづけることは大変。大変です。だけど、ふとした瞬間に「この光景を見れてよかったな」と思うときがあります。いろいろな人がくるからこそ、人と人のあいだで仲裁する場面もある。それこそまさに“地域共生社会”でもある。まあ、そういうごちゃ混ぜであいまいなよくわからない場は、社会的価値を見出されにくくもあるのだけど。
場のひらきかたにも「春日台センターセンター」のように福祉施設をひらくパターンと、だいかい文庫のように福祉施設以外をひらくパターンがあります。
特に後者は「みんなで集まって楽しそうにしているんでしょ」の一言で片付けられがち。「みんな」のなかに精神障害のある人も、失業中の人もいるんだけどね。
地域共生社会ということばが一人歩きして、目の前の人が置き去りになっていませんか?そういう警鐘を鳴らした「リッチモンドに帰れ」という言葉があります。目の前の一人のケースワークからはじめよう。そこから、行政がビジョンをつくりだすことも大事なのでは?
※「リッチモンドに帰れ」
クライアントが置き去りにされているケアを見直すため、1950年代にマイルズが提唱したことば。リッチモンドは、アメリカにおけるケースワークの最初の体系的理論家。ケースワークの母ともよばれている。
問い 社会的処方はお医者さんの専売特許?行政にもできる?
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行政にも、できます。たとえば要介護認定申請。役場の窓口へ相談にきた人に、地域で行われている手芸教室などを案内してみる。「認知症がはじまる→デイサービスの利用者になる→特別養護老人ホームの入居者になる」というエスカレーターに乗る前に。手芸教室へ遊びに行き、共感できる人やボランティアの人とまじわり、地域コミュニティのなかでケアし合う。
疾患を医学的治療によって治すCure(キュア)から、患者に全人的なアプローチをするCare(ケア)へ。二つの境界はにじみつつあります。社会的処方に取り組む医療従事者も増えつつあると思います。医療や介護の枠を飛び出していこうとする医療従事者を、医療法人が組織全体として応援する視点も持っていただきたくて。
まちでふつうに暮らしてたらつながりが生まれて、自分の関わりも見えてきて、一人ひとりごきげんでいられる。人生に不安はつきものだけど、いつものコミュニティに行くと笑顔になれる。ぼくらは「気づいたらウェルビーイング」と話しています。このまちに暮らす一人ひとりがもっと幸せに生きれるかもしれない。そういう問いから制度をつくることが必要だと思っています。
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医療、ケア、暮らし、自治、経営、カルチャー…いったい何人いるんだろう、と思うくらいの複眼的視点を持っている守本さん。たかしまデザイン会議が終わってからも、ふくしデザインゼミの学生からの質問が続きました。
翌朝、モーニングを食べながら守本さんと話す時間がありました。取り組みが評価されて、Forbes JAPAN誌「100通りの『世界を救う希望』NEXT100」にも選ばれた2024年。飛躍の年を迎えた一方で「この先どうする?」という素直な葛藤も聞かせてもらいました。
2024年の大晦日にInstagramをひらくと、タイムラインにこんな投稿が流れてきた。そこには、自身がすくわれた「聞くこと、相談すること」への感謝が綴られていた。
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守本さん、TAKASHIMA BASEへきてくれてありがとうございました。今度はだいかい文庫へ行きますね。兵庫県豊岡市と滋賀県高島市、ひきつづきご一緒できたらいいな。
(編集・撮影:toi編集舎 大越はじめ)
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2025年2月22日(土)、たかしまデザイン会議の会場となった「TAKASHIMA BASE」では、本にまつわる企画「たかしまサーカス」をはじめて開催します。本をもとめて、新たなつながりを探して、水路・とうふが気になって、どんな方でも大歓迎。ぜひ遊びにお越しください!