私はカタツムリになりたい(短編小説)
『いや〜やめて〜お願い、、』
『うわぁ〜あうぅっぎゃ〜』
私は今日も虐められている。昨日も一昨日も、その前も。
苛めっ子は散々私を引き摺り回して立ち去っていった。
雨上がりのベタベタのアスファルト。
ベタベタの私。
倒されたままの私の目の前をカタツムリが一匹這いずり回っている。
貝殻に守られて楽しそうに側溝の蓋を這っている。
『お前はいいね、、気楽に暮らせて、、』
カタツムリはニョッキリ目ん玉をクリクリして、側溝の中に入って見えなくなった。
『あ〜ぁっ、、私もカタツムリに生まれたかったな、、』
次の日も泥水の溜まった駐車場を引き摺り回され、ドロドロになってしまった。
『カタツムリ、、いいなっ』
駐車場の隅に積まれたブロックを這うカタツムリ。
あれ、、目の前にカタツムリ、、
『あれ〜私、、カタツムリになっている、、』
背中には身体を守る貝殻が、、いざとなったら引っ込んで隠れれる。
のらりくらりと暮らせれる、、
虐めから解放される、、
だったのに、、、
『痛い、痛い、痛い、痛い』
何かが私の身体を齧っている。
黒い身体の物体が、生きたままの私を齧っている。
《鞘翅目オサムシ科の昆虫マイマイカブリだ、、》
やばい、やばい、食べられちゃう、、
『逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ』
必死に逃げる私をマイマイカブリは余裕綽々に追いついてムシャムシャと齧って食べ続ける。
《痛いよ、痛いよ》
『ワンワン!ハァハァハァハァ』
運良くワンコの乱入で少し身体を食べられただけで済んだ。
傷口がズキズキ痛い。
ちょっとでもマイマイカブリの居る所から離れなきゃ、、
『ん?何かがしっぽに、、ぎゃ〜』
気持ち悪い細長い蛭みたいな生き物が私を飲み込もうと食らいついている。
『ひ〜扁形動物門ウズムシ綱ウズムシ目コウガイビル亜目コウガイビル科コウガイビル属コウガイビルだ〜』
必死に必死に這って逃げる。逃げる。逃げる。
次々に襲ってくる恐ろしいバケモノ達。
『カタツムリって気楽じゃないんだ〜私を元に戻して!お願い〜』
《カツンッ》
貝殻に衝撃が響き、コウガイビルから黒い何かが私を引き離した。
空が見える。青い空。
《ゴクンッ》
真っ暗な狭いグニグニの壁、ジワジワと私を溶かす酸っぱい液体。
カラスの胃の中で薄れゆく意識の中【カタツムリには生まれ変わりたくない】私は一生懸命に祈り続けていた。