正しく理解して予防しよう(高血圧・塩分)
『高血圧は塩分摂取が原因である』『塩分を摂り過ぎると血圧が上がる』という関係は、一般の方々にとっても馴染みあるものと思います。
会社の健康診断などで血圧が高いと言われた方は特に意識するのではないでしょうか。
塩分摂取量が高いと血圧が上昇しやすくなると言われている要因は、塩分が体内の水分量や血管の中の血液量を増やすことで血圧が上がるとされているためです。
このような血圧と塩分の関係があるからこそ、減塩や塩分制限という言葉が多く聞かれるきっかけとなっています。
しかし単に塩分を少なくすることが必ずしも健康になるとは限りません。
身体の機能を維持することは複雑であり、さまざまな成分や栄養素が関わっています。そのため塩分に関しても、塩の原料やその他のミネラルなどの関係を知ることが大切です。
今回は高血圧と塩分の関係や栄養素について考えながら、高血圧の改善に繋がればと思います。
まずはじめに、食塩感受性高血圧と食塩非感受性高血圧というものがあります。
その言葉の通り、食塩が血圧に影響しやすいかそうではないかということです。
言い換えれば、塩分制限が効果的な人とそうではない人がいるということです。
この食塩感受性の高い人の割合は論文によってことなりますが、20~50%程度と推測されています。
つまり約半数の人は高血圧の原因が塩分以外にもあるため、減塩などを行っても、効果が出にくいということになります。
まず食塩感受性高血圧からみていきましょう。
食塩の主な成分はナトリウムです。
ナトリウムは体内の水分量を増やす作用があります。ナトリウムを摂取すると、体内の水分が増加し、血管内の血液量も増えます。
またナトリウムが増加すると、血管の内側の細胞がナトリウムを取り込んで水分を保持し、血管が拡張します。これにより、血管内の容積が増加し、血圧が上昇します。
腎臓の機能では ナトリウムが増えると、腎臓がより多くの水分を保持するようになります。これも同じく、体内の水分量が増え、血圧が上昇します。
さらに ナトリウムが増えると、血管の内側の細胞がナトリウムを取り込んで水分を保持することで、血管の内側が狭くなります。これにより、血液が流れにくくなり、血管の抵抗が増加し、結果として心臓が血液を押し出す際に必要な圧力が高まり、血圧が上昇します。
まとめると、ナトリウムが増えると体内の水分量が増加、血管が拡張してし、血管抵抗が増加することで血圧が上がります。
これらの要因で血圧が高くなっている場合は、ナトリウムの摂取を少なくすることで血圧を下げられる可能性があります。
ここで余談ですが、食塩と塩の違いをご存知でしょうか。
精製された食塩は工業的に製造されたものであり、作られた塩です。この塩は、純粋な塩化ナトリウム(NaCl)で構成されており、他のミネラルや微量元素はほとんど含まれていません。
一方天然の塩は主に海水や地下の塩層から採掘され、天然の塩には、ナトリウム以外のマグネシウム、カルシウム、カリウムなどのミネラルや微量元素が含まれています。
つまり精製された食塩と天然の塩は似て非なるものであり、身体に対する影響や効果はまったくことなります。
先ほどのナトリウムが原因の高血圧の場合、純粋な塩化ナトリウム(NaCl)で構成されている食塩とマグネシウム、カルシウム、カリウムなどのミネラルや微量元素が含まれている天然の塩では、血圧への影響が異なります。
それは単純にナトリウムの量が少ないからではなく、マグネシウムやカリウムが血圧を下げる方向へ働いてくれることが関係しています。
カリウムやマグネシウムは、血管の平滑筋をリラックスさせる効果があるため、血管が拡張することで、血液の流れがスムーズになり、血圧が下がります。
またカリウムは、ナトリウムとのバランスを保つ役割を果たします。カリウムが適切に摂取されると、体内のナトリウムの排泄が促進され、体内のナトリウム濃度が下がります。これにより、血液中の水分量が減少し、血圧が下がる効果があります。
マグネシウムは、ストレスホルモンであるアドレナリンの放出を抑制する作用があります。アドレナリンは血管を収縮させ、血圧を上げる作用があるため、マグネシウムの摂取によって血管のストレスが軽減し、血圧が下がる可能性があります。
このように食塩と天然の塩との違いは大きいため、食事や料理の味付けの際には少し気を付けてみてはいかかでしょうか。
一方、食塩非感受性高血圧は、食塩摂取量の増加に反応または関連しない高血圧の状態を指します。その原因は複雑で、いくつかの要因が関与している可能性があります。
一つ目は遺伝的要因です。
一部の人は、遺伝子によって高血圧になりやすい可能性があります。
二つ目は血管の構造や機能に関する異常です。血管は自律神経に支配されていますが、その自律神経により血管の収縮や拡張が適切に調節されない場合、血圧が上昇することがあります。
三つ目は腎臓です。腎臓は、体内の水分や電解質のバランスを調節し、血圧をコントロールする重要な役割を果たしているため、腎臓に異常がある場合、血圧が上昇する可能性があります。
四つ目はホルモンの異常です。身体はホルモンという伝達物質をきっかけに身体の調節を行っています。血圧に関係するものとして、アルドステロンというホルモンの過剰分泌によって、ナトリウムと水分の保持が増加し、血圧が上昇することがあります。
このように高血圧の原因は塩分だけではなく、多くの要因が関係していることがわかります。
現場の医師はこれらの可能性や、採血検査、生活習慣の聞き取りから、適切な治療アプローチを行っています。
最近では高血圧の治療薬の種類も増え、より的確な治療ができるようになりました。
また当院では栄養や運動といった薬物に頼らない治療も積極的に行っています。
ここまで読んでいただければ、高血圧=塩分過多という考えは少し薄くなったと思います。
もちろん過剰摂取は健康に悪影響を及ぼしますので、適量摂取が望ましいですが、過剰に塩分を控えて、食事量が減ってしまい、結果体調を崩すといったことがないようにしていただければと思います。
塩は身体にとってプラスにもマイナスにも働くということをしっかり意識していただければと幸いです。
高血圧を含め生活習慣病はさまざまな病気を作り出します。
大きな病気にならないように、今後も身体を大切に過ごしていきましょう。