運動の可能性とマイオカイン
当院では積極的に運動療法を勧めています。
運動にはさまざまな効果があります。
1. 心臓や血管を健康に保つ
運動を続けると、心臓が効率よく働くようになり、血圧を下げる効果があります。動脈硬化や心筋梗塞、脳卒中などのリスクを減らします。
2. 体重管理や肥満の予防
運動は消費エネルギーを増やし、脂肪を燃やします。
筋肉量を維持・増加させることで基礎代謝が上がり、太りにくい体質になります。
3. 糖尿病の予防と改善
筋肉がエネルギーを消費することで血糖値が下がり、インスリンの働きが良くなります。特にウォーキングや筋力トレーニングが効果的です。
4. 骨や関節を強くする
運動は骨密度を保つのに役立ち、骨粗しょう症を予防します。
関節を動かすことで、関節痛や関節の硬さを軽減できます。
5. ストレス解消や心の健康
運動は「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンやエンドルフィンを増やし、気分を良くします。不安やうつ症状の軽減にも役立つとされています。
6. 認知機能の向上
運動は脳への血流を促進し、記憶力や集中力を高めます。
アルツハイマー病や認知症の予防効果も研究されています。
7. 免疫力の向上
適度な運動は免疫細胞の働きを活性化し、風邪や感染症への抵抗力を高めます。
8. 睡眠の質を改善
運動は体温調節やリラックス効果を通じて、深くて質の良い睡眠をもたらします。
9. 寿命を延ばす
運動を習慣化している人は、さまざまな病気のリスクが低くなり、長生きしやすいことが研究で示されています。
10. 日常生活を快適にする
筋力や柔軟性、バランス能力が向上し、転倒やけがのリスクが減ります。
日常動作がスムーズになり、自立した生活を長く続けられます。
このようにさまざまな研究で、運動が健康全般に与える多大な効果が解明されつつあります。
その中でも特に近年注目されているのが、筋肉が運動中に分泌する「マイオカイン」というタンパク質の役割です。
マイオカインは、体を元気に保つだけでなく、脳にも良い影響を与えることが分かっています。
今回は、マイオカインがどのように私たちの体と心に作用するのかを勉強していきたいと思います。
筋肉と骨を守るマイオカインの力
年を重ねると、筋肉や骨が弱くなりやすくなります。この現象は、骨密度が低下する「骨粗鬆症」や、筋肉量が減る「サルコペニア」と呼ばれる状態につながることがあります。
これらの変化により、転倒や骨折のリスクが高まりますが、運動を習慣化することで防ぐことが可能です。
特に、筋トレやウォーキングなどの運動を行うと、筋肉がマイオカインという物質を放出します。マイオカインの効果には以下のようなものがあります:
・骨の強化:骨を作り直す働きを助けます。
・筋肉の回復:運動後の筋肉修復をサポートします。
・炎症の抑制:体内で起こる不要な炎症を抑えることで、健康を保ちます。
週に3回以上、軽い筋トレやヨガを取り入れるだけでも、これらの効果を得られる可能性があります。
(参考:Lundberg, T. R. et al., "Resistance Training and Aging," Journal of Applied Physiology, 2020)。
運動が脳にもたらす良い影響
運動は体だけでなく、脳の健康にも役立ちます。特に「BDNF(脳由来神経栄養因子)」という物質が重要です。この物質は、脳の神経細胞を増やしたり、既存の神経細胞をより強化したりする役割を持っています。
BDNFの効果には次のようなものがあります:
・記憶力の向上:新しい情報を覚えやすくなります。
・認知症のリスク低下:脳の健康を長期間維持します。
・気分の改善:ストレス軽減や気分の落ち込みを和らげる効果があります。
ある研究結果では、週150分程度の軽いジョギングやサイクリングを続けると、BDNFの量が増えることを確認しています。
(参考:Wrann, C. D., "Exercise-induced BDNF and Cognitive Health," Nature Reviews Neuroscience, 2021)。
このように、運動は脳を若々しく保つために必要という考え方もできます。
実践のための簡単なアドバイス
運動を日常生活に取り入れる際に役立つポイントを紹介します:
・さまざまな運動を組み合わせる: ウォーキングやランニングのような有酸素運動と、軽い筋トレをバランスよく取り入れることで、全身に良い効果が広がります。また脳トレと運動を組み合わせたコグニサイズなども身体、脳両方に効果があります。
・続けることを優先する: 運動は短期間で劇的な効果を発揮することはありません。そのため続けることがなによりも大切です。
毎日10分でもOKです。
1回の運動の効果やわずかですが、そのわずかな運動を継続することで得られる効果は何倍にもなります。
たとえしんどい負荷でなくても、簡単なストレッチを毎日するだけでもその効果を感じると思います。
・体の声を聞く: 無理をせず、自分に合ったペースで行いましょう。また、運動後にはしっかり休み、栄養を補給することも重要です。自分の身体への気づきを高めて、自身の身体の専門家となりましょう。
いかかでしょうか。
運動は単なる体重管理や筋肉をつけるための手段ではなく、私たちの体と心にとって非常に強力な「薬」です。
特に、マイオカインやBDNFといった自然に体内で作られる物質を活用することで、老化を遅らせたり、脳の健康を守ることができます。
これから運動を始める方も、すでに取り組んでいる方も、これらのことを念頭において実践するだけでも、運動の効果は高まります。
新たな挑戦の一歩が将来の健康に繋がります。
今日から少しずつ、体を動かし、より元気で充実した生活を目指しましょう!