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バンクーバー旅行記 -我が心のスティーブストン-

ジャズ・ブルースの定番曲に『我が心のジョージア (Georgia on My Mind)』という曲がある。

アメリカ南部のジョージアで州歌にもなっているこの曲は数多くの著名ミュージシャンによってカバーされてきたことでも知られている。その中でもレイ・チャールズによる歌唱が群を抜いて人々の(とりわけアメリカ人の)記憶に残っていることだろう。ソウルフルで力強く、それでいてノスタルジックな感傷を誘うこの曲の魅力は深い。なんだか聴いているだけでジョージア州の風景が心に浮かぶような (たとえ自分を含め多くの人が行ったことがなかったとしても)。郷愁に駆られるこの曲を聞いて自分の故郷を懐かしみ、そして恋しく思う。そんな魔法がかかったスタンダード・ナンバーは決して多くない。

バンクーバーの小さな漁師町、スティーブストンを旅で訪れたあとにふと一つの言葉が浮かんだ。それが「我が心のスティーブストン」だった。ここはアメリカ南部ではない。カナダの外れの小さな町。でもこの素朴でのどかな町を歩いていると不思議と「懐かしい」という感傷を抱いている自分がいた。なんだか心のポケットにしまっておいた大事な思い出を辿るようで、どこか切なく寂しく、それでいて恋しい気持ちになった。

バンクーバーはお気に入りの旅先でこれまでもたびたび足を運んできた(以下の旅行記に詳しく書いてきました)。それでもこのバンクーバーは何度訪れても飽きることのない底の深い魅力がある。そしてこのスティーブストンはバンクーバの"隠れ名スポット"としてまた違った一面を味わうことが出来る街だったと言えよう。


そんなわけで。今回はバンクーバーのちょっと寂れた漁港、スティーブストンを歩く旅。写真をたくさん交えながらゆるーくご紹介していきます。


朝9時ごろ。バンクーバーの市内のホテルを出る。スティーブストンまではバンクーバーの中心街からUberで30分くらい。ちなみにUberがカナダ(バンクーバー)でアメリカと同じように使えるのはとても助かる。旅をする身としてはありがたい限りだ。「Uberあざっす」と心の中でつぶやく。

この日は残念ながら曇り模様。ぼくが住んでいるシアトルと同じくバンクーバーは基本的に天気があまり良くないのだ。なので「まあそういうもんだよな」と一人納得して目的地へと向かう。

Steveston Coffee

町に着いた。土曜日の朝ということもあってか人はまばらだった。がらんとした大通りには可愛らしい雑貨屋さんやカフェが並んでいる。どこかさびれていてそこが心をくすぐる。

旅の初めにコーヒーを。そんな思いで近くにあったSteveston Coffee (スティーブストン・コーヒー) というお店に入ってみる。

ちょっと肌寒かったから外にはお客さんはおらず

店内は小さく、テーブルも数少ない。それでいてコーヒーのメニューはずらりと黒板に綴られていた。中にはおそらく地元の人なんだろうなと思われるおばちゃまと子供を連れた家族がちらほら。のんびりとしていて、すごくゆっくりコーヒーを飲んでいるんだろうなと思われた。

さてなにを飲もうかしら
毎週土曜の朝はここに集まっているのだろうか

コーヒーをひとしきり飲んだ後、店を出る。軽く散歩する。

人はまばら。時折犬を散歩している人がいるぐらい。街並みは可愛らしく、見ているだけで心がほっこりする。

おしゃれで可愛い建物がちらほら

Gulf of Georgia Cannery

スティーブストンはかつて缶詰工場で栄えた町。近海で獲れるサケやニシンなどの魚を加工して缶詰に入れて出荷する。このGulf of Georgia Canneryはそんなお魚を加工する工程や歴史を学ぶことができる小さな博物館だ。

散歩の途中でふらっと入った。さして期待もせずさっと見てぱっと出ようと思っていたのが、これが見事に期待を裏切ってくれた。なかなか見応えがあるのだ。一つ一つの模型は細かく作り込まれており色彩もデザインも味わい深い。当時の工場の姿がありありと目に浮かぶ。おそらく当時としては最新の技術が使われていたのだろうけれど、古ぼけた機械を見ているとどこかレトロな趣がある。

海の男って感じだけど、ハット被っているのがおしゃれ
ハリバットという巨大なカレイやコッド(たら)が獲れるみたい
どういう風にして加工した魚を缶詰にパッケージングしていくかがよく分かる

たくさんのお魚の模型と缶詰を見終わったところで散歩の続きへ。街をぶらりと歩いていると、赤茶けた可愛い建物が見えてきた。中を覗いてみると電車の模型が。スティーブストンとバンクーバーの中心地をかつて繋いでいた列車を展示しているみたいだった。

ポップでカラフルで、どこか懐かしい。これじゃまるでウェス・アンダーソンが撮った映画の世界のようじゃないか。

お子ちゃまが覗き込んでるからなにかと思ったら電車だった
こんな愛らしい電車が街を走っていたらいいですね
古めかしい車内は豆電球のオレンジ色の光で照らされている
---なんだか時間が巻き戻ったかのような感覚に---

Outpost Mini Donut Company

ふらふらと散歩をしていたら小腹が空いてきた。なんかお腹に入れるものないかなと思ってたら、街で人気のドーナッツ屋さんがあるというではないか。行ってみよう。

お店のある港の方へ進む。このあたりは船に乗ってクジラを観ることができるらしい。「クジラ観ようぜ!」みたいな看板がたくさん目に入ってきた。クジラいいな、観たいな。でも今はドーナッツだよ。

そうこうしているうちに目当てのお店に着いた。中はこじんまりとしていてノスタルジックな雰囲気。アンティークの家具や古風な置物がセンス良く並べられている。肝心のドーナッツはミニマルな姿かたちをしており小腹を満たすにはちょうどよかった。甘くておいしい。そしてもちろん可愛い。

年代物のソファに座ってもぐもぐと食べているとなんだか不思議な気分になった。「おばあちゃんちに来たみたいだな」と心の中で独りごつ。

クジラを観たいが今はドーナッツ
古き良きもので溢れた店内
ひとくちサイズのドーナッツがこれまた美味しい

ドーナッツを食べたらなんだかコーヒーを口に流し込みたくなった。街をまたぶらぶら歩き出すと本屋っぽいコーヒー屋さん(もしくはコーヒー屋っぽい本屋さん)が目に入った。

店内は数多 (あまた) の本で溢れていた。きっと店主がすごく本が好きなのだろう。話したら仲良くなれそうだ。そんなことをぼけっと考えながら店内をざっと見渡す。

小さめのブラックコーヒーを頼む。真っ黒な液体がゴクリと喉元を通る。ふっと目がさめる。そんなこんなで次の目的地へ。

いいですよね、こういう街の本屋
たくさんの本で溢れかえった店内

Fisherman's Wharf

海の方へと向かうと見えてくるのがFisherman's Wharf (フィッシュマンズ・ワーフ)。ここにはとてもユニークな仕掛けがあった。

門を通り過ぎると海に面した一本の船着場が見える。そこにはいくつもの大きな船が左右に着けられている。それぞれの船は色んな種類のお魚が展示・販売しており、船着場を散歩する人が見て回れるようになっている。「船が今さっき港に帰ってきて、陸にあがりもせずそのまま魚を売っていますよ」というような見せ方がキャッチーだ。魚好きとしては心惹かれる。

やってきました、フィッシュマンズ・ワーフ
船着場にはいくつもの船が左右に着けられている
この近くの海で獲れるサーモンがずらりと並ぶ
このあたりで獲れるのはどれも美味しい魚ばかり

この場所はなかなか盛り上がっていてたくさんの人で溢れていた。たっぷりと美味しそうなお魚が見れてとても満足。

港に戻る。するとフィッシュマンズ・ワーフで買ったばかりの魚やエビを持参したコンロに並べて嬉しそうに焼いている人たちがいた。新鮮なうちに食べてしまおうということらしい。

なるほど、地元の人はそうやって楽しんだりもするのかと一人納得した。そんな姿を見ていたらこちらもなにか食べたくなってきた。さてと、というわけで遅めのお昼でも取ろう。

港で買ってきたばかりの魚介類を焼いて食べる人々。
わんこが「なんか用か?」とこちらを覗き込んでる。

Pajo's Fish & Chips

フィッシュマンズ・ワーフの近くでもう一つお客さんで賑わう場所があった。それがここ、Pajo's FIsh & Chipsだ。ここも船着場に位置していて、黄色いパラソルが並べられているので一目で分かる。

フィッシュ・アンド・チップスってたまに無償に食べたくなりますよね。ぼくだけだろうか。でも多くの人が行列をなしてウキウキとした様子で待っているのを見る限り、ぼくだけではないようだ。

この近くの海で撮れたサケやタラをじゅっと揚げたフライは見事なおいしさだった。魚の味がじゅわーっと口の中に広がる。幸せいっぱいな気持ちになる。

イエローな感じでイケてる
レモンを軽く絞っておいしくいただく。幸せなり。

おいしい魚が食べられて満足だ。…でもなにかが足りない。

ビールだ。「フライを食べたのにビールを飲まないなんて信じられない」とぼくの心の中で叫び声が聞こえる。まあ休日だし昼下がりから飲んだっていいじゃないいか。そう自分を諭してブルワリーを探す。

しばらく歩いているとなにやら見過ごせないものが見えてきた。

横浜だ。もうどう見ても横浜だ。これじゃまるで横浜駅じゃないか。近くにビブレや高島屋がないか見渡してしまったぐらいだ。

どう見ても横浜

どうやら「横浜」という名の和食屋さん?が出来るみたいだ。ふむふむ、楽しみだ。生粋の浜っこであるぼくとしては心から歓迎したい(スティーブストンの人間でもないが)。

そうこうしていると近くに「Beer」の文字が入った看板を見つけた。地元のバーといった様子で、今の気分には持ってこいだ。お店の中はがらんとしていて一人としてお客さんはいなかった。ぼくが行った時期はサッカーのヨーロッパ・リーグが盛り上がっていたようだ。20代そこそこと思われる店員の女性はだらだらとサッカーの中継を観ながら「いらっしゃい」とだけ言う。ぼくはカウンターに腰掛けて地産のクラフトビールを頼む。

ホップの効いたIPA (インディアン・ペール・エール) が運ばれてくる。キンキンに冷えたその生ビールを口に流し込むと華やかなホップの香りと苦味が口に広がった。

「うめーーー」と静かに唸る。そしてぼくもその店員と同じくぼんやりサッカーの中継に目をやりながら「いい土曜日だな」とつくづく思うのだった。

「クラフトビール」とあったのでするすると店内へ誘われ…
ヨーロピアンな感じの店内。
きっと夜は地元の客で賑わうのだろう。
やっぱ生ビールよね

今日はそんなところですね。ここまで読んでくださりありがとうございました。

いかがだったでしょうか?スティーブストンには他にもムラカミ・ハウスやロンドン・ファームといった素敵な観光名所があるけれど長くなるのでこの辺で。

心と体がよろこぶ癒しの町、スティーブストン。ここを訪れることは、まるでなにか失くしていたものを取り戻すような旅になるはず。半日もあればじっくり楽しめるので、まだ行ったことのない方にはおすすめしちゃいます。

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それではどうも。お疲れたまねぎでした!

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福原たまねぎ
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