総合診療医が『最後の医者は桜を見上げて君を想う』を読んで妻を想う
学生の頃から緩和ケアに興味があり、人の生死に興味を持っていました。「死」とは何か、という哲学的なことよりも、最期の時に人はどんな感情でいるのか、という人が持つ心情に興味があります。そして、本人と家族の間に渦巻く様々な感情に寄り添うことのできる人でありたいと思っています。
緩和ケアの道に進もうかと迷った時期もありました。最期の最期に本人と家族で繰り広げられるドラマを、より良いものにプロデュースすることができるからです。
でも、僕は、総合診療医・産業医の道へと進みました。
大切な人の命がカウントダウンされはじめた時、家族問題が表出してくることが多いです。当事者にとっては、急に現れたと感じるはずですが、僕から見ていると、ずっと水面下にあっただけだと感じられます。
良くも悪くも平均余命は出ていますし、一定の割合で予期せぬ最期はあり得ます。僕自身、修行のために救急医をやっていた時、自分の医者人生も何年あるのかわからないからこそ、本当にやりたいと思っていることをやろうと決意して総合診療医に転身しました。
だから、それぞれが人生で大切にしたいものを大切にすることをサポートしたいと思っています。そして、もしそこに「家族」も含まれるなら、問題が出てきたから解決するようにマイナスをゼロにするのではなく、ゼロをプラスに、プラスをもっとプラスに、より良い関係性を作っていくことをサポートしたいと思っています。
何より僕自身が、親子関係、夫婦関係について、より良いものにしていきたいという熱量を持っています。
ということで長い前フリになってしまいましたが、多くの人に読んでみて欲しいと思っている本を紹介します。
最後の医者は桜を見上げて君を想う:二宮敦人
構成
第一章 とある会社員の死
第二章 とある大学生の死
第三章 とある医者の死
と、タイトルの「最後」から連想できるように、医療と死に関する物語です。
登場人物
主な登場人物は3人です。
桐子:「患者は死を選ぶ権利がある」が信念で、あだ名は「死神」
福原:熱血漢で命を救うことを諦めない天才外科医
音山:同僚、医大からの友人でもある神経内科医
感想
医師になって、様々な生と死に接する中で、自分の中に桐子のような冷淡でドライな心もあったことを思い出しました。
物語に登場する医師たちのほとんどは、桐子の考えに同意できない人たちが多かったのですが、とても共感する部分がありました。桐子は患者さんにストレートに伝えるのですが、普段僕が考えていることが言語化されていたように思います。
(伝え方には問題があるし、小説的にキャラを誇張してはいるはずです)
特に印象に残った部分の引用です。
「命について真剣に考えたこともないのに、死にたくないと病院に来て、医者にその命を委ねるのですか」「ほとんどの人が、何も考えずに来ます。ただ漠然と、再び元気で退院することだけを求めて来ます。だから、我々は彼らをベルトコンベアに乗せざるを得ないのです。ただ余命を少しでも伸ばすことだけを目的にしたラインに乗せ、工場のように動かすのみです。それが彼らの願いなのですから。」
「僕たち医者は患者を救おうとするあまり、時として病気との戦いを強いるのです。最後まで 、ありとあらゆる方法を使って死から遠ざけようとする。患者の家族も、それを望む。だけどそれは、はたして患者が本当に望んでいた生でしょうか?医者や家族の自己満足ではないか?患者が他人の自己満足に巻き込まれ、死に敗北するようなことがあってはなりません 」「死に振り回されると、往々にして生き方を失います。生き方を失った生は、死に等しいのではないでしょうか。逆に、生き方を維持して死ぬことは、生に等しいとは言えないでしょうか」
これです。本当にこれなんですよ。
すでに虚弱状態でほとんど寝たきりに近いような状態で、余命数年、下手したら数ヶ月という人が、漫然とかかりつけ医から大量の処方薬を継続され、内服の意味も知らずに、時に内服薬の副作用で苦しみ、人生の最期を迎えようとしているなんてことが現実にあります。
僕は、ここに憤りを感じていて、こんなのは真っ当な医療じゃないと思っているのです。
だから、もっと元気なうちに、「死」について考えることで、自分にとっての「生」とはなんなのかを、考える機会があればいいと思っています。
ちょっと考えてパッとわかることじゃないし、現状では、いざそうゆう話が出るときは、誰かの生命の最後が意識されたときなので、感情はさらに揺れ動きます。だからこそ、感情が揺れ動くことをそのまま受け止められるような医師が必要だと思っています。
そして、医師としての自分も迷い、感情が揺れ動くのも当然だし、それを認識して認めることが大切だと思っていました。
この医師としてのスタンスについては、音山先生の言葉に集約されているので引用します。
「俺が探し続けていたものは 、俺が医者になってやりたかったことは 、すぐそばにあったのだ。それは、迷うということ。患者と一緒に迷い、悩む。答えが出せないとしても、その苦しさを分かち合う。それでよかったのだ。」
これに尽きます。
そっと寄り添って、その人らしさを支えられるよう、これからも生きていこうと思います。
ちなみに、僕のお涙ポイントは妻への手紙の場面です。レビューのために二度目に読んだ時も、わかっていてもお涙ポロリでした。
妻に言ったら、
「それで、私のことを思い出してくれたんでしょ?」
だそうです。
夫婦の絆にもいい物語です。
この本を読んでみることで、「死」について考えるきっかけとなり、自分にとっての「生」とは何かを見つめ直す機会になったら嬉しいです。
そして、家族で「死」について話すきっかけにもなってほしいと願っています。
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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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