紅茶のにおいの少女のゼリー(レシピノート)
甘くない、ストレートの紅茶は好きなのに、こどものころから砂糖を入れた紅茶やコーヒーはどうしても飲むことができなかった。わたしにとっては、日本茶や麦茶に砂糖を入れないのと同じ感覚なのだと思う。
高校のとき、女子の間で圧倒的に人気の飲み物はなんといっても午後の紅茶のミルクティーだった。レモンやストレートを飲んでいる子は不思議と見なかった。茶色い髪をゆるく巻いた、声の細く高い女友達の指先や唇からは、いつも午後ティーのミルクティーのあまいにおいがする。
巻き髪なんてとても似合わない、硬い黒髪を不器用に束ねた日に焼けた漁村の娘のわたしは、母に毎朝持たされる水筒入りの渋く煮出した煎茶ばかり飲んでいた。
あれから早15年、午後の紅茶のパッケージは変わっても、今でも店頭で白く濁ったミルクティーを目にすると、胸がじりっと甘くよじれる。それは、憧れとすこしの嫉妬の合間にある飲み物なのだ。
高校を卒業して、働いて、結婚して、挫折したり諦めたり病気になったり、それでもまだやっぱり毎日なんとか楽しくやっている。
あのころより年齢は大人になったって、自分なんてそんなに変わりはしない。苦手なものやきらいなものを、自然と克服できるわけでもない。
でも、甘い飲み物が飲めないわたしは変わらなくても、自分が苦手なことや好きではないものを、自分の”好き”に変える方法があることを、あのころより少し大人になったわたしは知っている。
甘い飲み物は嫌いでも、甘いお菓子は好き。だから、ときどき紅茶のゼリーをつくる。
材料:できあがり500ml分
・ティーバッグ 4袋
・水 300ml
・牛乳(豆乳でも。50mlほど生クリームにすると濃厚) 250ml
・砂糖 40g
・ゼラチン 8g~12g(ゆるめ~硬め、お好みで)
・(お好みのホールスパイス しょうが、シナモン、カルダモン、ペッパーなど)
作り方:
ゼラチンに分量外の大匙2の水を振り入れふやかしておく。
鍋に水を沸かし(スパイスを入れる場合はここで入れる)、湧いてきたらティーバッグを加え、くつくつと3分ほど煮だす。最後にぎゅっと箸でティーバッグをしぼって取り出す。
砂糖と牛乳を加えて、沸騰させないように温める。
火を止めたら、ふやかしたゼラチンを加え、かき混ぜて溶かす。
タッパーや容器にゼリー液を流し、粗熱をとってから冷蔵庫で2時間以上冷やしてできあがり。好みで生クリームやホイップを添えて。
いつもは、家にある日東紅茶やリプトンのティーバッグで作るけれど、ときどき、午後の紅茶のミルクティーでつくってみる。それは、自分の味より少したいらで渋みがすくなく、やさしい味で、「あのころ」わたしが本当はなってみたかった、女の子の味。
まるでその年ごろの自分だったらそうした、というように、タッパに直にスプーンをつっこんで、けだるく食べる。残り少ないゼラチンをけちって作ったふるりとゆるい紅茶のゼリーは、唇、舌、のど、おなかの底、と、つーっと溶けて落ちていった。