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「現代思想 物流スタディーズ」が、へたなビジネス書より面白い

現代思想の3月号「物流スタディーズ」を、読んでいる。
「カルチュラル・スタディーズ」のようなノリで、「物流スタディーズ」特集を組んだのは驚きだが、へたなビジネス書より面白い。

まだすべては読めてはいないが、興味深いトピックと考えたことを、いくつかまとめておく。


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物流(Transportation)から、データ通信(Teleportation)へ

Amazonが2015年(!!)に、モノを取り寄せるのではなく、注文者の近くの拠点、注文者に輸送するまでのトラックの中で、3Dプリンティングによる商品の生産をする、といった仕組みの特許をとっている。(WSJ

在庫の解消・商品を探す手間の排除・輸送時間の短縮がメリットだが、これが実現されれば、もはや物流業ではない。

オランダの金融グループINGが発表したデータによると、今後40年以内にすべての製造品の半分以上が3Dプリンタで製造され、その市場規模は6兆ドル規模になる。また、2060年までに、3Dプリントによるモノづくりが世界貿易の25%を消失させる、と予測している。

つまり、モノの移動(=物流)が、データの移動(=通信)に、置き換わっていく流れがある。

受注生産になるため、そういった意味では過剰生産の抑止になるが、個人のニーズに合わせて低コストで手軽に生産する発想なので、生産を促進する側面もありそうで、そのあたりは気になるところ。

そういう意味では、シェアリングエコノミー的な方向と、棲み分けや掛け合わせができれば、さらにいいのかもしれない。



「個人単位の観点ではない最適化」の波

Amazonは、顧客第一として、注文者のニーズをベースに、サービスが最適化されている。つまり、経済・資源配分・産業全体など、観点を変えると非効率・不経済なものも出てくる。

ECトランザクションの増加に対して、現場の体制が追いつかない、物流クライシスも表面化している。たとえば、それをふまえて、配送にかかるコスト・エネルギー側を効率化するなら、エリアごとにまとめて発送して、世帯ごとにパッキング、というやり方もある。

そういった、ピンポイントで個人に最適化したことで生まれるひずみについて、解消するような動きが、求められているし、起きはじめている。
それは、ローカル・コミュニティでの最適化視点であったり、スマートシティ的な全体最適視点だったりする。

全体最適については、ブロックチェーンによるサプライチェーンの透明化、量子アニーリング技術による最適化計算など、テクノロジーの進化も後押ししていくはず。



近代的な "家" の解体

・"家" のスリム化

近代以降の "家" は、必要なものがすべて載っているようなフルパッケージになっている。

しかし、たとえばコンビニやAmazon、メルカリなどを活用することで、モノを "家" にストックするという仕組みの必要性は減っていく。必要なときに購入して、すぐに消費する、要らなくなったら売る。

もともとこれは、図書館、ブックオフ、TSUTAYAなどが、家の棚の一部のように機能していたのと同じ話で、それがさらに進むというだけだ。

また、洗濯機なども、必ずしも一家に一台である必要はなく、そうやって機能ごとに外部化していくことができる。

"家" は、最低限必要なところを残してスリム化し、その一方で、"外部ストレージ" のような存在が増えていく。


住所からの解放

ノマド的な働き方の推進や、Airbnbの普及など、決まった場所や自宅に留まる暮らし方から、流動的なほうへ、世の中は変わりつつある。
実質、Uberの配車依頼など、GPSによる個人の位置情報をベースに行われる

主要なアイデンティティであった、住所の意味が希薄化していく。



情報社会における "流通" 概念の変容

もともと "流通" は、「ある完結した物体の、生産者から消費者までの、物理的・空間的な移動プロセス」を意味していた。
つまり、「物」が主導する、生産者視点での「生産」「流通」「消費」のプロセスがあり、それぞれは空間的移動で表象されてきた。

しかし、AmazonをはじめとするECにより、情報社会における "流通" は、新たな概念に変わる。

ユーザー(消費者)目線で、注文前に「情報」というかたちで商品が存在し、その「実質」が手元に届く、それが "流通" となる。
裏側にあるロジスティクスも、電気や水道のようにインフラ化し、そして購入インターフェースも音声入力化するなど、より透明化していく。「生産」「流通」「消費」のプロセスも、ユーザーの観点から組み変えられる。

コミュニケーションが、発信者から受信者への伝達モデルから、受け手主体で構成された情報・解釈モデルだと、抜本的に見直された、その構図に近い。


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ここで取り上げたものは、ほんとうにごくごく一部なので、思想書なんてと抵抗のある方も、ぜひ読んでみて欲しい。

現代思想 2018年3月号 特集=物流スタディーズ —ヒトとモノの新しい付き合い方を考える(Amazon)
田中浩也 (著)、若林恵 (著)‎、 横田増生 (著)、 今野晴貴 (著)

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