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郁田はるきの白は、まっさらなキャンバスの白
郁田はるきさんのWINGを優勝までプレイして、彼女に対する理解を深めたいと思ったのと、イラストやデザインに触れた人間にのみ伝わる表現がいくつかあったこと、表現という行為について整理してみたくなったので、久しぶりに理屈を捏ねることにしました。
これはあくまで自分の表現です。客観的に正しいかは分かりませんが、それでもよい方は読んでください。
CoMETIKというユニット
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郁田はるきは、CoMETIKというユニットに所属しています。シャニマスというシリーズは色に焦点を合わせた表現が多彩に含まれていることが周知の事実ですが、CoMETIKは「白と黒」という無彩色を意識して結成されたユニットです。
ユニットの中心人物とも言えるのが斑鳩ルカ。シーズとの関連性が深い人物としてずっと前から登場して、のちに283プロダクションに移籍してきました。斑鳩ルカの心の闇を表現するような黒に対して、ユニット発表時に登場した鈴木羽那と郁田はるきの二人は、白を出発点としているように思います。
鈴木羽那の白は「危うくすら思えるような純粋無垢さを表現した白」です。
内面描写が薄いのは心の表裏がない現れ。他者を心から信用し、すぐに距離を詰めて、相手に委ね、自然と求められるように振る舞う。(この性質は、どちらかと言えば光を正反射するスペキュラーな物体、つまり鏡に近い気がするけど)
東京からわざわざ岡山まで出向いてスカウトに来た怪しくてヤバい男を信用し、斑鳩ルカが相当に危険な人間であることは誰が見ても明白であるにも拘わらず、平然と彼女の心の闇に踏み込んでいきます。
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では郁田はるきの白はどのような白なのか?
自分としては、「まだ何も描かれていないまっさらなキャンバスの白」だと思います。これは単に、郁田はるきがクリエイターであるからというだけではなく、彼女の置かれた状況と考え方から表現しています。
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これらの説明は少し長くなるので、シナリオを踏まえながら次章から説明します。
表現における主観と客観
話を進める前に、郁田はるきにとって重要な「表現」というものについて軽く触れておきます。
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ひょう‐げん【表現】
心的状態・過程または性格・志向・意味など総じて内面的・精神的・主体的なものを、外面的・感性的形象として表すこと。また、この客観的・感性的形象そのもの、すなわち表情・身振り・動作・言語・作品など。表出。
小説、絵画、造形、映画、音楽、言語、科学に至るまで、人類は様々な媒体で表現を残しています。そして、それらに従事する人間のほとんどが暗黙の前提に置いていることがあります。それは、「他者に見てもらうために行う」ということです。
誰かを喜ばせたい、驚いてほしい、泣いてほしい、共感してほしい。あるいは、表現を通じて名誉や地位、金がほしいという場合もあります。
なんにせよ、これらの目的は誰かに見てもらわなければ始まらないのです。
その結果、表現が他者に振り回されてしまうこともあります。人からの賞賛や批判を気にして内容を変えたり。人が褒めてる作品を褒めて批判されてる作品は批判したり。いいねRT欲しさに流行しているものやウケがちな絵を描いたり。本当は歴史小説が書きたいのに評価されるから仕方なく推理小説を出したり。
自分の表現もまた誰かの表現に影響される、それ自体は当然のこと。
ですが、表現というのは自分の感情、思考、意思を、表現の媒体を通じて残すこと。端的に言えば「自分の中にあるものを、外に出す」ことなのです。
自分と他人、どちらが欠けても、成り立たないのが表現です。
郁田はるきの色
郁田はるきにとってアイドルとは、あくまで表現の媒体の一つです。他の媒体と一線を画すものではなかったために、当初はそれほどの熱意や執着を見せていませんでした。
そのため、アイドルを始めたこと自体には、彼女にとっての大きな変化としては描写されていません。プロデューサーにスカウトされた時も「そんな表現の方法もあるんだ」という、思いつきのような考えだったことを明かしています。
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郁田はるきはクリエイターです。「付け焼き刃」や「中途半端」「いろいろかじって」などの言葉から考えると、手を出しているのはイラストや音楽だけでなく、他にも様々な媒体を通じた表現を行ってきたのかもしれません。場合によってはアイドルも中途半端なまま続けるということがあったのだと思います。
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彼女がこれほど執着している「表現」が、どうしてどれも「中途半端」になってしまうのか?
それは、彼女にとっての表現が、「客観的な視点」に振り回されてしまっているのだと思います。とにかく表現をして見てもらいたい。人の心を動かしてみたい。
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自分はどんなことが好きで、どんなことが楽しいと思うのか?本当は何がやりたいのか?周りに気を取られて、自分のことがまだ分からない。
これこそが「まだ何も描かれていないまっさらなキャンバスの白」と表現した理由です。いろんなことに手を出して、自分の気持ちに無自覚なまま、描きたいものを探している最中だったのだと思います。
そこに自覚を与えるきっかけが、出会いにおけるプロデューサーの言葉です。この瞬間から彼女の視点は逆転します。
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絵を描くことを志し、光と色に関する勉強を始めた人が、最初に教えられることがあります。それは、「目に見える世界は客観的ではなく主観的である」ということです。
せっかくなので、美術の参考書から引用してみましょう。
私たちは皆、自分の目はありのままの世界を客観的に見ていると思い込みがちです。目は視覚的な事実をとらえ、それをキャンバスに移し替えれば、目の前にあるものをそのまま描写できると想像します。けれども、実際にはそうではありません。視覚とはあらゆる意味において主観的で、その人だけに見えている世界です。
人が見ている世界はあくまで主観的なものです。そこには正解も不正解も、普通も異常もありません。その人が見たいように見て、捉えたいように捉えてよいものです。
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プロデューサーの言葉に気づきを与えられて、郁田はるきは他者に見てもらうために行うという「客観的な行為」としての表現から、自分の中にあるものを、外に出すという「主観的な行為」としての表現に視点を置き始めます。
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色というのは本当に主観的なもので出来ています。同じものを見ても、違う色で認識している、違ったイメージを持っているということが往々にしてあります。「世界が色づいていく」とは、「主観的に世界を見始めた」ことを意味しているのだと思います。
そうなると、一つの疑問が出てくるのではないでしょうか。
それは、「白を象徴する郁田はるきが加入するCoMETIKというユニットが、どうして黒をイメージカラーとするのか?」
例えに沿って言い換えるなら、「キャンバスの白に重ねた色が、どうして赤、青、緑などの鮮やかな色ではなく、黒となるのか?」ということです。
斑鳩ルカに影響された二人が黒に染まる、アイドルとなって世界の厳しさ、困難さ、後ろ暗さに触れて変化するといった意味も込められているかもしれません。
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しかしこれも、光と色の理論で説明できると思います。その理論が減法混色です。ちゃんと説明すると難しい話になるので、深くは踏み込みません。
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大事なのは、「様々な色を混ぜ合わせると最終的に黒になる」ということです。美術の時間に扱った絵具を思い出せば分かると思いますが、絵具の色を混ぜるたびに物体色は光を吸収して、どんどん黒に近づいていくのです。
郁田はるきもまた、世界の様々な色を認識して、それらすべてを吸収し、最終的には黒になる。それは、赤、青、緑、黄、紫、様々な色を含んだ黒です。CoMETIKにおける郁田はるきの黒には、そうした意味が込められているのだと思います。
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郁田はるきと表現
シャニマスのアイドルたちは、他を圧倒する何かを持ち合わせており、アイドルとしての活動のなかでそれを表現します。
一度見たものを簡単にコピーしてしまえるようなパフォーマンス力や、見る者全てを魅了するようなビジュアルの良さ、マイペースで気が抜けている雰囲気なのに何故か人を惹きつけるオーラ、体が壊れそうになってもトレーニングを続ける熱量などです。
しかし、郁田はるきにはそうした何かがまだありません。
クリエイターというのは確かに一つの特徴ではありますが、彼女の言葉を借りるなら「中途半端」です。ちゃんとした場で披露できるレベルではあれど、技術的にも実績的にもそこそこ止まり。
周りをよく見ているところ、努力家なところなど、これらは彼女の武器の一つではありますが、他のアイドル達と比較してしまうと、埋もれてしまうのではないでしょうか。
郁田はるきは、そうした点に自覚的です。中途半端な自分にアイドルをやる資格があるのか?という問いかけをプロデューサーに話します。
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郁田はるきは、アイドルをやっていいのか?という疑問に限らず、不安や迷いを吐露することがとても多いです。
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「自分よりもっと上手い人がいっぱいいる。」
「自分よりもっと努力した人がいっぱいいる。」
「自分よりもっと好きな人がいっぱいいる。」
「他の人を押しのけてまで自分が選ばれて良かったのか?」
「今の実力では、チームのみんなに迷惑をかける。」
「まだ人に見せられるほどの出来にはなってない。」
「みんなが評価してくれるか分からない。酷評されるかもしれない。」
表現をする者にとって、こうした不安や迷いは普遍的なものです。
郁田はるきは、「しっかりする」「ちゃんとする」「頑張る」という言葉を口癖のように使うのですが、「自分は人と比べてもまだまだだから、少しでも出来ることをやらなきゃいけない」というある種の負い目のようなものが、その原因の一端を担っているんだと思います。
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ここまで書いて気づいた方もいるかもしれませんが、これは先述した「客観的な視点」に基づいたものです。他の人はどう思うか?他の人はどうしているか?自分と他の人を比較してどうか?
繰り返しになりますが、誰かの視点に振り回されてしまうことは、主観的なものの発露である表現にとって、あまりよい状態ではありません。どのような媒体にしろ、自分が思考し行動することなしに、客観的な形で表現を残すことは出来ないのです。
こうした周りをよく見ているという郁田はるきの長所は、周りを気にしすぎるという短所にもなっています。
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だからこそ、プロデューサーは何度も指摘します。
自分は何が好きで、何を楽しく思うのか?主観的なものに立ち返ろう。
誰かや何かに制限されずに、自分が思うまま自由に表現しよう。
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郁田はるきがアイドルになったきっかけも、「誰か」に頼まれて助っ人として参加していたイベントで、「自分から」プロデューサーの前に飛び出していったからです。
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自分の思いを原動力にする。その上であれば、表現を通じて誰かに伝えたい、影響を与えたいという気持ちに間違いはありません。
郁田はるきはプロデューサーとの会話を通じて気づきを与えられ、「自分の中にあるものを、外に出していく」「主観から始めて客観に繋ぐ」という表現の本来の形を、実践できるようになっていきます。
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郁田はるきとこれから
表現をしているうちに、自らの原点を忘れてしまい、一度気付いたことも忘れて、何が好きか、何が楽しいか、何がしたいのかも分からなくなってしまう。自分で自分を縛り、本来あった可能性を自ら閉じる。そうするうちに何にも関心が持てなくなって、いつかは持っていた熱い感情を無くしてしまって、遠回りをしてしまうどころか、表現自体を辞めてしまう。
こうしたことは、とてもよくあることだと思います。
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だからこそ、不安や迷いを抱えながらも表現することを辞めない、自分の思いをはっきりと伝え、相手の意見もちゃんと吸収し、自らに活かすという、単純なようで難しいことを続けていられる事こそが、個人的には彼女の一番の長所だと思います。
誰かの表現を通じて、自分の中にあるものに気づく。これこそが客観的な視点との付き合いとして最も理想的なものです。
そして、誰かと一緒に何かを表現するということは、主観と客観を融合させたものです。自分の表現が誰かに塗り替えられてしまったり、霞んでしまいうる不安定なものでありながらも、その分多くの気づきを得ることが出来ます。
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郁田はるきは、「まだ何も描かれていないまっさらなキャンバスの白」です。
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そしてそれは、プロデューサーと、またCoMETIKというユニットと一緒に、表現したいものを探して、様々なものを吸収し、自分の中にあるものを見つけ、これから描いていくのだと思います。
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