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歌集副読本『老人ホームで死ぬほどモテたい』と『水上バス浅草行き』を読む を読む

歌集副読本『老人ホームで死ぬほどモテたい』と『水上バス浅草行き』を読む が届いた。

上坂あゆ美さんの歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』と岡本真帆さんの歌集『水上バス浅草行き』をより楽しむための本だ。

上坂さんも岡本さんも昨年2022年に第一歌集を出した歌人だ。この書籍はその二人がそれぞれの第一歌集について分析し、その短歌の魅力について語り尽くす内容だという。

さらに付録として、二人の新作短歌とエッセイも掲載されている。

歌集副読本 『老人ホームで死ぬほどモテたい』と『水上バス浅草行き』を読む

歌集副読本、こういう本を待っていた

短歌アンソロジーが好きだ。
そういう人も多いと思う。

アンソロジーというのは、複数の著者の作品を集めた、作品集。短歌のアンソロジーは多数出版されていて、その多くはそのアンソロジーの編者による解説が付されている。

わたしもカバンの中に必ず短歌や詩のアンソロジーを忍ばせていて、移動中などに読んでいる。

わたしが短歌アンソロジーを好きなのは、編者の作品解説を読むことができるから。

ひとりで歌集を読んでると、この読み方で合っているんだろうかと不安になることがある。

歌集というのは基本そっけなくて、
短歌そのものがずらずらと掲載されているだけだ。

だけ というとあれだが でも実際そういうものだ。歌集なんだから。

たまにあとがきや解説が充実していることもある。
栞文(しおりぶん)といって著名な歌人の解説がはさまっていることもある。
だが そういう解説が全然ない歌集も多い。
なんだか放り出されている感じ。歌集なんだからあたりまえだけど。

だから他の人はどう読んだんだろうな、というのが気になってモヤモヤしてしまうことも多い。
その点、アンソロジーは編者がなんらかのヒントを示してくれる。

それを読んで、ふむふむ と思ったり。なんか違う と思ったり。

それが楽しい。

この『老人ホームで死ぬほどモテたい』と『水上バス浅草行き』の副読本を読んで、アンソロジーのもっている役割に近いものを感じた。扱っているのは二名の歌人、二冊の歌集だからもっと深く濃厚だが、この本があることによって歌集をより楽しむことができる。

歌人二人でお互いの歌集について書き合うというこのフォーマット。
他の歌集でも、こういう副読本を出して欲しいと思ったくらい気に入った。

副読本から先に読んでもいいんじゃないか、と思わせる内容

この本の中には気づきがたくさんあった。

実は以前、岡本真帆さんの『水上バス浅草行き』が発売されてすぐにレビュー記事を書かせていただいたことがある。

歌集からまぶしさと明るさを感じて、とにかく明るくポップでコミックのような読後感、というようなことを書いてしまったと思う。

しかし副読本を読んで、自分が岡本さんの短歌の一面しかみてなかったことに気付かされた。

この本に掲載されているのは交流のある歌人ならではの分析であり、既にこれらの歌集に触れた人も改めて読んでみてほしいなと思う。

お互いの歌集の分析方法も、それぞれの個性が出ていて面白い。

上坂さんは がさっとおおきくつかんで岡本さんのキャラクターを示したのち、でもこういう面もある、と細かい掘り下げがおこなわれる。

岡本さんは生真面目に時系列で上坂さんの作品をとりあげ一首ずつたんたんと分析していく。

形式も自由で、それぞれが自由にお互いの歌集について書いたんだな、ということがこれでもわかる。

そして巻末には上坂さんと岡本さんの新作短歌とエッセイ。
ここもかなりのページ数で、全体の3分の1ほど。

奥付のあとに付録がついているのだが、その付録のボリュームに驚く。奥付のあとにこんなにページがある本って、すごくない? めちゃめちゃオトクである。

奥付のあとに付録がついている。こんなにたんまりと

ふつう副読本は、それぞれの歌集を読んだあとに読むのが順番だろうなと思うけど、今回の場合、まずは副読本を読んでから歌集にとりかかるのもアリなんじゃないかと思った。

副読本にはそれぞれの代表的な短歌が多く掲載され、解説されている。

要するに2冊の歌集のエッセンスが丁寧で楽しい解説付きで抽出されているわけで、ここを歌集への入口とする人がいても良いと思う。

2022年、話題となった2冊の歌集の副読本という新しい試み。わたしはとても堪能できた。



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