【ショートショート】のらロボット
「コマンドを入力してください」
繁華街を歩いていた田中は、突然、黒いロボットに呼びかけられた。
身長百四十センチくらい、人型。
田中は「ついておいで」と命令した。
以前はどんな仕事をしていたんだろうな。
あたりはのらロボットでいっぱい。エネルギーが切れて、ただのスクラップとなっているロボットもたくさんある。止まったロボットが路上にあふれ、車の行き来に差し支えが出るほどだ。
人類はロボットを作りすぎてしまった。とはいえ、あまったロボットを路傍に捨てていくのはあんまりだ。無慈悲なひとは、燃えないゴミに出すことさえあるという。
黒いロボットは、ひさしぶりにコマンドを受け付けたのか、心なしかうれしそうにあとをついてくる。
田中は行きつけのバーに入った。
彼女は先に来て待っていた。
「あら、またロボットを連れているの」
「そこで拾ったんだ」
「なにをさせる気」
「さあどうしようかな」
一時間ほど飲んでふたりは外に出た。
「彼女の荷物をもってあげて」
「はい」
ロボットはいそいそと荷物を受け取った。
駅まで歩いてふたりは別れる。
お酒が入ってすこしふらついている田中は、柄の悪そうな若者の肩にふれそうになり、言いがかりをつけられた。若者はツノだらけの凶暴そうなロボットを引き連れている。
「戦闘コマンドはないよな」
「ございません」
「逃げるか」
「飛行機能がございます」
「飛べ」
黒いロボットは田中に抱きつくと、頭からプロペラを出して、空中に浮いた。
「あ、この野郎。おりてこい」
「誰がおりるもんか」
田中はロボットに抱かれたまま空中を飛行し、二駅先の自宅まで戻った。
「悪いが、うちにはもうたくさんロボットがいてね。置いてあげるわけにはいかないんだが、せめて充電をしておいき」
田中はロボットをマンションの一室に通した。
身の上話を聞く。以前は配送の仕事をしていたとか。
充電が終わったので、田中は黒いロボットに「繁華街へ戻れ」と命じた。ロボットは窓から暗い空へと飛び立っていった。
(了)
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