【ショートショート】数を数える
待ち人来らず。
田中は駅の構内で待ちぼうけを食っていた。
なるべく暖かい場所をもとめて、改札前の柱のそばに居場所を定め、ときどき時計を眺めてはため息をつく。
自分のほうが時間を間違えたのではないかと思いLINEを確認したりするが、どう考えても勘違いしているのは彼女のほうだ。
やがて退屈した田中はあたりを観察し始めた。
パイプ椅子に座り、防寒服を来た女性が小さな機械片手に通り過ぎる人をチェックしている。数のカウントしているのだろう。そういうアルバイトは田中もしたことがある。
じっと彼女の手の動きを眺めていると、通り過ぎる人をぜんぶカウントしているようではなさそうだ。
興味をもった田中はぶらぶらと近づいていき、人通りの絶えたときを見計らって、
「カウントのアルバイトですか」
とたずねた。
「ええ」
と防寒服の彼女。
「ぜんぶ数えているわけじゃないんだね」
「はい。外国人だけ」
「あ、なるほど」
田中は引き下がった。そういう需要もあるのだろうな。
外国人をぱっと見分ける技術は、かなり高度なものだろう。
やがて、パイプ椅子を持った男性があらわれた。
彼もカウントを始めた。
カウント数は女性よりもずっと少ない。
田中はまたも興味を惹かれ、男性に近づいて、同じことを聞いた。
「ハイ、私ハ宇宙人ヲカウントシテイマス」
とちょっとおかしなアクセントで男性は答えた。
「ええっ、宇宙人?」
と田中は驚いた。
「いるんだ」
男性はうなずいた。
「イルノデス」
「ごめんねー、待ったー?」
ようやく田中の彼女があらわれた。
「待ったよー」
と田中は答え、ふたりは改札のなかに入っていった。
男性がカチリとカウントボタンを押したことを田中は知らない。
(了)
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