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【ショートショート】海岸にて

 白い砂浜がどこまでも続く美しい海岸である。
 こんなに絶景なのに、誰も観光客がいないのはおかしいと思いながら、夏休みの旅行にやってきた娘と私はいっしょに砂の城を作っていた。
 おもちゃのコップで砂を掘っては、お城を高くする。波が侵入しないうように、周りには高い城壁を作る。砂遊びは楽しく、私は娘以上に熱中してしまった。
 そのため、黒い服装の男たちが浜に侵入してきたのにぜんぜん気づかなかった。
 彼らは大きな作業用のスコップを持っている。
 何人いるのだろう。私は波打ち際で立ち上がったが、人数は確認できなかった。遠くのほうまで黒い男たちは散らばっている。
 いっせいにスコップで土を掘り始めた。
 娘が不安そうに、私の足に捕まってくる。
「大丈夫大丈夫」
 と言いながら、なおも男たちの行動を見守る。彼らは砂浜になにか大きな模様か記号のようなものを描いているようだった。
 私たちの砂の城も壊されてしまった。
 娘が涙を浮かべる。
「またあした作ろうな」
 といって、私は娘を抱いて後ずさり、海岸から立ち去った。
 翌日、満潮にあらわれた砂浜はまたきれいな状態に戻っていた。
 海岸沿いの道との境にあるコンクリートに座り、私が海岸を眺めていると、また昨日の男たちがやってきて、模様を描きはじめた。
 なにかの信号だなあ、これは。
 なにに向かって信号を発しているのだろう。
 私は男たちと言ったが、彼らが人間である保証はない。
 その夜、巨大な光が夜空に浮かんだ。
 次の日、町からは人が消えていた。宿の人もいない。海岸に行っても黒い男たちはやってこない。
「また砂のお城、作るかい」
 と聞くと、娘は首を振った。私たちは短い夏休みを終え、家に帰ることにした。

(了)

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