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【ショートショート】提灯行列

 日中外を歩いていると、しばしば目が痛くなり、顔を伏せることが多くなった。
 目が乾燥しているかもしれないと思い、眼科に行った。
 医者は首を振った。
「目には異常はみられません。国の検査所のほうに行ってみてください」
 死刑宣告のようなものだ。
 私はうなだれて、千代田区にある大きな検査会場にやってきた。いわゆる提灯検査だ。海外では「ドラキュラ病」と呼ばれるが、日本ではなぜか「提灯病」と呼ぶ。
 かかってしまえば、余命は三年ほどしかない。太陽の下には出られなくなり、昼夜が逆転する。
 検査の結果は陽性と出た。
 しばらくして、保健所から時代がかった提灯が送られてきた。
 提灯病患者にはさまざまな特典が与えられている。無料の飲食や家賃の免除など、余命を快適に過ごすことができる仕組みだ。仕事をしなくてもじゅうぶんに生きていける。
 私は提灯の蝋燭に火を点し、家の外に出た。
 同じく提灯をもった女性が前方を歩いていた。
「あの。こんにちは」
 私は声をかけた。
「はい、こんばんは」
「あ、こんばんはですね」
「どちらでもいいけど」
「私、先週、陽性の判定が出たんです」
「お気の毒に。私は二年前よ」
「もう二年も」
「そう。長かった。こんなことなら仕事でもしていればよかった」
「われわれに仕事をくれる会社なんてね」
「ないのよ」
 すぐさま会社を追われた私はうなずいた。
「伝染するとでも思っているんですかね」
「単純に怖いんだと思う」
「まだ死んでないのに」
「死者のように見えるのよ、きっと。飲みに行きましょうか」
 彼女に連れていかれた居酒屋は提灯を持った人間ばかりが集まる店だった。主人が提灯病患者なのだ。
 したたか飲んで、四時頃、店を出た。
 目の前の道を提灯が埋め尽くしていた。提灯行列だ。
「こんなに」
「そう。こんなに多いのよ、意外でしょ」
 高齢者を中心に発症する提灯病は、自然が起こした人口調節機能ではないかとの説もある。知り合った彼女は七十三歳で、私は六十八歳だ。夜の町から若者の姿はすっかり消えていた。

(了)

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