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【ショートショート】飛び級

 能力主義が根付き、優秀なものはどんどん出世していく。
 学校でも飛び級が認められた。十二歳で大学を卒業することも不可能ではない。
 私はといえば、三十を過ぎてまだ平である。今度うちの課に来た主任はまだランドセルを背負っていそうな女の子だ。
「よろしく」
 と言われ、
「よろしくお願いします」
 と頭を下げる。顔をあげると、彼女はもういない。部屋から歩み去る姿が見えた。できるやつは時間を無駄にしないのだな。
 彼女は二十五歳にしてついに取締役社長になった。
「入りたまえ」
「はっ」
 大きな社長室におそるおそる入る。
「ソファに座りたまえ。じつは相談がある」
「社長が私などになんのお話が」
「凡人の考えることはよくわからん」
 社長は天を仰いだ。
「いくらていねいに説明しても、わからないと怒り出す。私たちはどうも嫉妬を受けているようだ」
 私たちというのは、出世組のことだろう。社長は大胆な人事刷新を行って、無能な役職者をみんな追い払ってしまった。社内はそれでいいとして、ほかの会社との折衝に苦労しているらしい。
「そこで凡人課というのを作ることにした」
 いろいろな部署に出かけていっては話を聞き、
「理解が遅い」
 と怒られるのが仕事だ。交渉相手か凡人だったら私たち凡人課が出ていき、飛び級組だったら出世した連中が出て行く。
 私たちの出番も少なくなかった。
 数年後、凡人課は凡人部となり、私は部長に出世した。無能力者の出世頭といわれている。
 また社長に呼ばれた。
「きみ、評判いいぞ」
「はあ」
 どういうことだ。
「会社組織なんて不効率なものは、きみたちがやったほうがよろしい。君、社長をしなさい」
「社長はこれからどうなさるのですか」
「引退して、趣味の釣りでもするさ」
 飛び級組は、会社も飛び級で通り過ぎてしまうのだなあ。

(了)

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