【ショートショート】塚

　土を盛ったものを塚という。
　佐藤家の庭に大きな塚が出現した。
　塚の土はやわらかい。掘ってみると、穴があった。
　人が楽々と歩けるほどの穴だ。
　佐藤は、穴の中に入ってみた。
　灯りがないので、懐中電灯をとってくる。
　懐中電灯の明かりは暗闇に飲み込まれてしまった。
　穴はそうとう遠くまで続いているらしい。
　佐藤は歩き出した。
　最初はおそるおそる歩いていたが、だんだん怖くなってきたし、疲れてもきた。
　佐藤は引き返し、突然、庭に出現した穴のことを新聞社に通報した。
　記者とカメラマンがやってきた。
「謎の地下道発見」
「地下が穴だらけに」
　といった見出しが紙面に躍る。
　同時に東京のいろいろな場所で塚が発見されはじめた。
　大勢のひとたちが独自に探検をはじめた。
　そして、発見されたのが巨大化したもぐらだ。
　なんとまあ、そのもぐらは肉食であった。
　探検ブームはぴたっと止まった。
　ようやく国や都が対策をはじめたが、捕獲や退治はいっこうに進まない。
「えらいことになったなあ」
　と佐藤がテレビを観ながら愚痴をこぼしていると、家がぐらりと傾いた。
「うわあ」
　あわてて外に飛び出す。塚からはじまる穴が家の重さに耐えかね、崩れ始めたのだ。
　まさかの地盤崩壊。
　災害保険はでないだろうなあ。

（了）

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