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【ショートショート】作者不在

 ある日、海岸で浜口綸太郞という人からの手紙を拾った。
 広口のガラス瓶に詰められた手紙である。ほんとに遭難して孤島に流れ着くなんていうことがあるのだ、と驚いた。
 手紙には島にたどり着いた時の状況と名前と日付が書いてあった。二〇〇三年に遭難したらしい。
 まだ助け出されていないとすれば、それから二十年くらいは孤独な一人暮らしを続けていることになる。
 私は海上保安庁に連絡したが、孤島がどこにあるかわからない以上、手の打ちようがないそうだ。
 潮の流れの関係なのか、その後も私は浜口からの手紙を拾い続けた。瓶やら紙やらは大量に所持しているらしい。
 浜口はとうとう暇つぶしに小説を書き始めた。
 まず出だしを拾い、次に最終章を拾った。
 いきなりネタが割れちゃったよ。
 まあ、仕方ないか。そんなに順序よく瓶が漂着するわけもない。
 私は毎日、早朝に海岸を散歩する。そのたびに、小説「孤島にて」の続きや、日々の生活記録などを拾った。返事を出してあげたいところだが、こればかりはどうにもならない。
 やがて「孤島にて」が溜まったので、私は手紙を出版社に持っていった。
「行方不明の作者というのは面白い」
 ということで、作者不在のまま、浜口綸太郞著「孤島にて」は大手出版社から販売され、異例のヒットとなった。
 印税を求め、浜口綸太郞の妻だと名乗るもの、親兄弟だと名乗る者、親戚だと名乗るものが多数あらわれて、泥沼の喧嘩を始めた。
 おい、浜口、しばらく帰ってこないほうがいいかもよ。

(了)

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