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【ショートショート】電動アシスト
「電動アシスト自転車が楽らしいよ」
とことあるごとに言っていた。もうすぐ誕生日だからである。
ひょっとして、と期待していたのだが、妻はにやりと笑って、
「予算オーバー」
と言った。
まあ、6、7万円はするからなあ。ちょっと高いよなあ。
誕生日当日、
「で、これ」
と妻がくれたのが、電動アシスト靴である。
青い色のスニーカー。
一足2万円だそうだ。高いといえば高いし、お手頃といえばお手頃である。
履いてみた。ずしりと重い。
バッテリーがついているのだから当然か。
おそるおそる足を持ち上げた。
「これはあれだな。足に巻くおもり。アンクルウェイトだな」
「文句言ってないで歩いてみ」
玄関まで歩き、階段を登り始めたとたん、劇的に足が軽くなった。なにごとか。スニーカーが私を引きずるようにして、ぐいぐい前に進んでいく。
「上り道だとか、歩く速度が落ちてくると、アシストしてくれるのよ」
「これはいい」
私は喜んだ。股関節の筋肉を痛めて以来、歩くのが非常に遅くなっていたから、私にぴったりの靴だ。
「おい、散歩に行こう。そうだ。ひさしぶりに新宿まで歩いてみよう」
うちから青梅街道を行くと、鳴子坂下あたりから坂道が急になる。私は飛ぶように歩いた。
「わはははは。これは気持ちいい」
新宿を通り越し、四谷方面へと進んだ。
「おまえは自分の分は買わなかったのか」
「私は歩けるもん。歩きすぎると関節痛が出るけど」
「じゃ、そろそろ戻ろうか」
あれ。
急に足が重くなったぞ。大地に根が生えたようだ。
「あなた、どうしたの、急に立ち止まって」
「足が重い。持ち上がらない」
「バッテリーが切れたのね」
「そんなバカな」
「靴につけるくらいのバッテリーだからきっと容量が小さいのよ」
「あ、それを知っていて自分の分は買わなかったんだな」
「じゃあ、あとからゆっくり来てね」
「あ、待て。どうやって充電すればいいんだ」
「家に充電器があるわよ」
そう言い捨てると、妻はすたすたと歩いていった。
(了)
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