【おんがく探究日誌Vol.1】 シャッフルビートとせつなさ
「おんがく探究日誌」は、音楽(主に歌もの)について、メロディ・リズム・サウンド・構造・歌詞・声色・テクニックなどなど様々な切り口から新しい見方で考えてみよう!という企画です。
第1回のテーマは「シャッフルビートとせつなさ」。
シャッフルビートとは
4分音符1拍の中に「タタタ」と音を3つ打つ三連符の、真ん中を抜いたリズムが基本となるビートのことを言います。
わたしの個人的な印象としては陽気で明るく、すこし気の抜けた柔らかいイメージの似合うビートです。
代表曲はこんな超有名曲。The Monkees「Daydream Believer」
イントロのピアノはまさにシャッフルリズムを刻んでいます。
このシャッフルリズム、またはこのリズムをもとにしたシャッフルビートは洋楽のみならず日本でもたくさん使われています。
このビートが使われている曲を聴いていて、ふと思ったことがあるのです。
「このビートはせつなさとの相性が良いのではないか?」
泣きたい日の快晴、失恋した夜の腹の虫、怒っているのに見せられる友達の変顔。「なんでだよ…」と思いつつ、ちょっと救われるような間抜けさ。
そんなアンビバレントな魅力が、「シャッフルビート×せつない詞」にはあるような気がするのです。
「デイ・ドリーム・ビリーバー」THE TIMERS
先ほどの「Daydream Believer」を原詞とは異なる日本語でカバーしたのが忌野清志郎(にそっくりの覆面ボーカル)率いるTHE TIMERS。
セブンイレブンのCMにも起用され、日本でこの曲を有名にしました。
今はもういない”彼女”との遠い思い出の日々を「ずっと夢を見て 安心してた」と歌うこの曲は、カバー史に残る名曲です。
一説にはこの”彼女”は、忌野清志郎の亡き母なのではとも言われています。
優しくてなつかしくて、微笑むように泣いてしまう。
「me me she」RADWIMPS」
Aメロは旋律自体がシャッフルリズムで、軽やかに曲が展開していきます。
だからこそサビの詞がとびきりドラマチックに羽を広げるのです。
歌詞の主人公の未練はなかなかに重いのですが、シャッフルリズムと野田洋次郎さんのあどけない声質がこの曲をポップにしていると思います。
「Penny Lane」The Beatles
故郷リバプールでの幼少期の思い出を描いたポールマッカートニーによる曲です。
ゆるく陽気なシャッフルビートが使われることで、子どもに戻ったポールがペニー通りを語っているようです。昨日のことのように思い出せるからこそじんわりとせつない、ノスタルジックな曲です。
「カブトムシ」aiko
バラードというイメージが強い曲ですが、ドラムがシャッフルビートです。
aikoさんはどの曲でも(シャッフルに限らず)弾むリズムと悲しい詞の掛け合わせ手法を用いている印象があります。
ただしこの曲で歌われているのは幸せな恋愛で、どちらかというと旋律やコード進行が切ない感じがします。「幸せな時間にほんのりと漂う別れの予感」のような、複雑な構造ですね。
「Wouldn't It Be Nice」The Beach Boys
最後は番外編でこの曲。シャッフルビートの代表例のひとつです。
この曲の詞自体は切ないわけではないのですが、「陽だまりの彼女」という小説でとても印象的な使われ方をしていたので紹介します。
底抜けに明るい彼女の好きだった、とびきりハッピーな曲ほど、失った後に聴くと泣けてくる。
こちらの小説は映画にもなっていて、そのテーマソングとしても使われています。
どの曲も思わずハミングしてしまうようなリズムの小気味よさがあり、だからこそじんわりとせつなさが胸に広がる名曲です。
シャッフルビート、令和にも使っていきたい。