変な話『雨の日と憂鬱』
雨の日と言うのは、どうにもやる気が起きなかった。
ジメジメと肌をまとわりつくような重たい空気。癖の多い私の髪は、ウネウネと岩海苔のようにベタつく。近所の喫茶店へ行こうにも、お気に入りのスニーカーが濡れてしまう。想像しただけでも溜息が出る。
こうして、ごろごろと天井を眺めているのでさえ耐えられないほど退屈であった。
誰からの便りの入らないスマートフォンは、静かに充電コードに繋がれている。
正直、私の今倒れている場所からは、手を伸ばしてもギリギリ届かないのだから、例え鳴ったとしても返信はしない筈なのだ。
それから、現実と夢のちょうど間のあたりをウトウトと漂っていた。耳に伝わってくる雨の音が強くなってきた。ザーーッ。
ゆっくりと目を開け天井をぼんやりと眺める。そして再びゆっくりと目を瞑る。ザーーッ。
意識がゆっくりと遠のいてゆく。ザーーッ・・・。すると、一つの大きな雨の中に、小さなポツポツとした雨が無数に聞こえてきた。
ポツン。ポトン。タタン。
ポツッ。パラッ。チョポン。
雨の音が、心地よく体の中に浸透してくる。ひたひたと水の上を漂う体は、力が抜け文字通り夢のようであった。
ポツン。ポトン。タタン。
ポツッ。パラッ。チョポン。
雨も悪く無いと思っていた。
ポツン。ポトン。タタン。
ポツッ。パラッ。チョポン。ニョキッ。
「ニョキッ?」
ポツン。ポトン。タタン。
ポツッ。パラッ。チョポン。ニョキッ。
「ニョキッ?!」
私は、我慢ならなくなり目を開けた。しかし、天井はいつもと変わらない。部屋を見渡したがさっきと変わらない。雨音もザーーッと降り続いている。どうやら私は夢の中に引き込まれていたようであった。
そして私は、再び目を瞑った。ザーーッ。
体の力が抜け、意識がゆっくりと遠のいてゆく。ザーーッ。
「嗚呼、これだ・・・」この感覚が堪らないのだ。ザーーッ・・・。
ポツン。ポトン。タタン。
ポツッ。パラッ。チョポン。
水上をひたひたと漂う。
ポツン。ポトン。タタン。
ポツッ。パラッ。チョポン。
私の体は、何倍も軽くなり、さっきまでの憂鬱さは消えていた。
ポツン。ポトン。タタン。
ポツッ。パラッ。チョポン。ニョキッ。
「ニョキッ?!」
私は飛び起き、そして腹が立った。